何もかも眠っている街を
ひとりきり、歩いたことがある
信号の色が音もなく変わった
風に満たぬ空気が頬を撫ぜた
わたしの足音だけ
コンクリートの上に響いていた
──ねえ、このままどこまでも
遠く灯る光のほうへ
まだ知らない朝のほうへ
かなふゆアンソロジー、第2弾。
「逃避行」をテーマに、いつもと違う道、旅先で出会うまだ知らない景色と気持ちを、三人がそれぞれの物語に綴りました。
蘇芳ぽかり『息苦しい日はアリクイ連れて』
17歳。足掻いても足掻いても行き止まりばかりのように感じていた。
息が詰まるような夏の日。部活や人間関係に悩む高校生のあさひは、駅で偶然、中学時代に児童館でよく会っていた涼太郎と再会する。
「アリクイ、探しに行こう」
意味なんてない。でも、歩き出したら止まらなかった。
炎天下の川沿い、くだらない会話、ラーメン屋の奇跡。二人と一匹の奇妙な旅は、あさひの心の奥に固まっていたものを少しずつ溶かしていく。
これは、孤独だった2人が呼吸できる場所を見つける、解放の物語。
雲夢笑笑生『ベテルギウスの香る夜』
「カクテルはただのお酒ではないんです。そこには物語があり、言葉にならない想いや願いがある」
研究に行き詰まり、人間関係にも疲れて雨の夜の街をあてもなく歩いていた大学院生・芹澤は、路地裏で不思議なレシピノートを拾う。持ち主を探して迷い込んだ先は、バー「宵の華」。
バーテンダーのアオギリや常連客たちと会話するうちに、芹澤は将来への迷いや、星を愛する自分の気持ちを打ち明けていく。
我が道を行く勇敢なあなたへ、特別なオールドファッションドと憩いのひとときを。
天井萌花『氷上の美女と野獣』
東さには氷上に生きる怪物だ。
サニが普通の女の子だったら、一人の人間として好きになれたのに。
東さにというフィギュアスケート選手がいる。
彼女は誰もが憧れる実力者で、氷上に生きるために生まれてきたと誰もが思う天才だった。僕にとって東さには、最初はただのクラブの仲間だった。同じ時期に習い始めた幼馴染なのに、いつからあんなに遠くに行ってしまったのだろう。サニと同じように氷に人生を捧げているはずなのに、彼女のような結果を出すことができない。そんな焦りとサニの眩しさに狂わされ、僕は少しずつおかしくなっていた。才能がないのも離れるべきなのもわかっているのに、僕は氷の外の世界で生きる方法を知らない。
「ねえ、明日練習休みでしょ? 一緒にどっか遠く行こうよ」
クラブの練習終わり、サニが僕を誘ってきた。僕はサニに連れられて、初めて育った氷から離れることになる。
僕達は短い旅を通して、氷の世界と東さにに向き合うことになる。