こちらのアイテムは2026/11/8(日)開催・文学フリマ東京43にて入手できます。
くわしくは文学フリマ東京43公式Webサイトをご覧ください。

小説教室

  • 南1-2ホール | O-44 (小説|純文学)
  • しょうせつきょうしつ
  • 染水翔太
  • 書籍|B6
  • 1,000円
    • 「兄ちゃんと弟」「暗路」「小説教室」「肘」「家」の計5編をふくむ短編/掌編集です(東京文フリ40で販売)。


      ■「兄ちゃんと弟」より抜粋
       レースカーテン越しに差す陽の光だけで明かりの保たれた、実家の居間。その真ん中で、弟は何することもなく、背筋を伸ばしてソファに座っている。顔を会わせるのは正月以来で、とくに話す内容もなく、どう声をかけたらいいか、なんとなくわからない。いったん自室に向かおうとしたところで、弟はゆっくりと振り返り、
      「兄ちゃん、久しぶり」
      「うん」
       ふっ、と短く息を吐いて立ち上がり、こちらを向く。相変わらず、大きかった。会うのは、互いが帰省する正月か盆にほとんど限られるが、そのたび、百七十五センチはある僕をゆうに上回る背丈、首の際から水平に伸び、ほとんど直角に落ちる肩、それのせいで何を着ても寸胴に見える胸板、上腕に比して長い前腕、足先のように分厚い手のひら、などが視界に入る。高校生のころは柔道に打ち込み、黒帯を締めていた。卒業から六年ほどが経ち、二十も中盤に差し掛かってきたが、日を追うごとに大きくなっている。

      ■「暗路」より抜粋
       しばらくして運転手の男が、
      「観光客がいないと、この街はもう駄目」
      「そうですか」
      「コロナのときとかね、もう人がいなくなって、駄目かと思ったよ」
      「でも大丈夫だったんですね」
      「なんとかね。いくつかバイトをして、食いつないだんですよ」
      「それはそれは」
      「郵便配達とかね」
      「はい」
      「コンビニの夜勤とか」
      「ああ」
      「あとはチラシの封入とか」
      「へえ」
       男は黙る。
       数秒のち、
      「お兄さん、アルバイトとかはなんか、やってましたか?」
      「塾講ですね」
      「じゅっこう?」
      「塾の先生」
      「へえ。じゅっこうって言うんですか?」
      「いや、塾、講師」
      「ああ、塾の講師」
      「はい」
      「じゃあ頭いいんだ」
      「いや、そういうわけでもないんですけど」
      「そういうわけでもないのかあ」


      ■「小説教室」より抜粋
      「あなたたちは罪を犯しました」
       講師を名乗る女は言った。
       教室には、「生徒」と大きく書かれた白いTシャツを着た老若男女が机の前に座っている。女は続ける。
      「あなたたちは創作を冒涜しました。規定を破り、特定の賞で生成AIを使った者、過去の作品を剽窃した者、特定のSNSアカウントから特定の作者に向けて無数の誹謗中傷を行った者、新人賞の下読みに賄賂を渡して便宜を図ってもらおうとした者、その賄賂を受け取った者…」
       女はここにいる生徒たちの罪を挙げていく。
      「あなたたちは創作をする者。芥川賞を目指す者。新人賞を経てデビューをしたい者。小説を拠り所にする者。あるいはすでに華々しくデビューしている者。そんなあなたたちに受けてもらう罰は…」
       数秒のち、
      「劣化」
       劣化? 
      「あなたたちが持っている小説の技術。それを劣化させてもらいます。下手になってもらいます」

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