なれない鏡
「翔くん、今月もNo.1だったね」
僕はウキウキして推しのホスト、翔くんに話し掛ける。
「これも拓也さんのおかげだよ」
なんてハスキーボイスで囁かれると、なるほど、世の女性が彼に恋焦がれて大金を支払うわけだと納得させられる。
「翔くんは僕の理想だよ」
「拓也さんってばそればっか」
小さく笑いながらお酒を飲む姿も格好いい。
そうだ。
僕は翔くんみたいになりたいんだ。
僕が翔くんにハマったのは、数年前、仕事で大きな失敗をして当時の上司に散々なじられ、死ねとまで言われたある日。
僕はそんな自分が嫌で変わりたい、なんとかしたいと自分がしそうにないことをしようと考えた。
それがホスト遊び。
翔くんのいる店に来たのは数軒目のことだった。
まだお店に入りたての翔くんを一目見た時、ああ、僕がなりたいのは彼なんだって直感した。
翔くんは、男の僕がお店に来て指名しても嫌な顔ひとつせずに僕の話を聞いてくれる。
それが仕事だって分かっているけれど、それが僕の救いだった。
お酒を入れる所作も、心遣いも、話し方も、顔も、なにもかもが僕の理想。
そんな翔くんに傾倒していくのは、時間の問題だった。
「佐藤さん、またミスしてるよ」
「すみません、課長」
他の人にミスをなすりつけられても気にせず自分で直して再提出する。
それがいいことか悪いことか分からないけれど、翔くんならスマートに問題を解決するだろうなって思ってそうした。
「佐藤さん、すみません。私のミスなのに課長から言われてしまって」
「気にしないで。次からは気を付けてくれればいいから。それに、こんなのなんでもないよ」
そんなやりとりが続いていたら、彼女は僕に好意を持っていた。
僕は戸惑った。
なにせ、女心どころか男心を掴み取る翔くんはリア恋勢には少し厳しい態度をとる。
ホストに貢がせすぎないためだ。
その真摯さが評価されて余計に女の子達は貢ぐんだけど。
……話が脱線した。
実は、僕は異性から告白されたことはない。
どうしようか悩んで翔くんに相談した。
翔くんはとても喜んでくれた。
「いいじゃない、拓也さん。その子と付き合っちゃえば。いい子なんでしょう?」
「でも……」
女の子と付き合えば、その子は僕が翔くんに会うのを嫌悪されるかもしれない。
僕のせいで翔くんの評判が下がるかも知れない。
僕はそれが怖かった。
「翔くんは僕が女の子と付き合っても平気なの?」
違う。これじゃ翔くんにリア恋しているみたいじゃないか。
翔くんは笑って言った。
「だって、拓也さんはそんなんじゃないでしょ」
そんなんってなんだ。
僕は翔くんみたいになりたくて、こんなに大金を貢いでいるんだけど。
だめだ。こんな束縛した考えは。
翔くんならそんなことしない。
翔くんなら……。
「うん、そうだね。前向きに考えてみるよ」
なんて言いながら彼女からの告白を断った。
翔くんには悩んでいる間に彼女が心変わりして振られたと言った。
翔くんに初めて嘘をついた。