こちらのアイテムは2026/11/8(日)開催・文学フリマ東京43にて入手できます。
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ゆめゆめかなわず

  • 南1-2ホール | P-60 (小説|純文学)
  • ゆめゆめかなわず
  • 川遊び川
  • 書籍|A5
  • 44ページ
  • 700円
  • 2026/11/8(日)発行
  • 人の繋がりと孤独について。
    恋愛と友愛の違いとは……
    小説と、エッセイ。
    ・ゆめゆめかなわず(小説)
    ・孤独ではないという状態(エッセイ)

    ゆめゆめかなわず(小説)導入

    ラッパーDEF MENACEと、ビートメイカーTomoshi Arakawaがタッグを組んだアルバムのリリースパーティーに来た。渋谷の真ん中にある、メジャーデビューしてないラッパーがライブするには大きめな、200人キャパの箱で、木曜の7時なのに軒並みおしゃれな人らが、ライブハウスのかたちにそって並んでた。あたしは仕事終わりに来たから、ストリートな場にそぐわないオフィスカジュアルだけど、今日が楽しみだったから、襟のフリルがボリュームあるブラウスを着て、休みの日だけ使う香水つけてきた。あたしは、ヒップホップが好きというか、デフメナが好き。デフメナと荒川さんはよく一緒に曲作ってて、二人そろえば間違いなしって感じ。ラップってあたしの印象だと、男くさくて、メロディからはみ出した言葉をがなる曲って偏見を持っていたんだけど、そうじゃないって知ったのはデフメナの曲聴いたから。高円寺の古着屋で流れてる曲がよかったから、なんだろーって思って、シャザムに聞かせて、出てきた曲を聴いていたら、ランダム再生で関連のある曲が流れ出した。デフメナの曲だった。デフメナの声はのびやかなハイトーン。歌詞をよく見るとめちゃくちゃ韻踏んでるんだけど、あまりに普通に歌うから、ラップだなあと感じさせない。歌詞は音に合わせて作られているから、ただ読むと不思議な文章で、ふわふわしている。ビートにうまく乗ったとき、詩としても歌としても威力を発する。デフメナの曲を聴くと得した気分になるっていうか、ラップもメロディもあるからさ。だから他の音楽きかなくてもいいじゃんって思っちゃう。それくらいあたしは好き。デフメナはどんなビートにも歌詞を乗せることができるけど、特に荒川さんの作ったビートと相性がいい。荒川さんの曲は、しっかり芯があってかっこいいのに、ピアノの繊細な旋律が聴こえたり、デフメナの美しい声とあわさるととにかくエモい。サブスク配信してるものから、iTunesでしか売ってないもの、プレミア価格ついた名が知れ渡る前のミックステープまで買い漁って、この世に出てるデフメナの曲は全部聴いてると思う。ただ、デフメナはあたしの中でまごうことなきディーバだとしても、テレビに出ているわけでも、なにかアニメやドラマの主題歌を歌っているわけでもないから、世間ではそこまで有名ってわけじゃない。ラップ好きな人からしたらすごい人気でファンも多いけど、普段一人で聴いてるだけだったから、リリパにこんな人いることにあたしはびっくりしてるし、わくわくもしてる。みんなデフメナのファンなんだ。デフメナは普段からそれほどライブに出るわけでもない、曲で勝負するタイプのラッパーだから、あたしは好きになって半年かな? はじめて生のデフメナの歌を聴く。列がすすみはじめて緊張やばい。スマホの電子チケット開いたら画面が白く明るくなって、スタッフさんが画面を独特な動きでなぞったら、使用済みって表示された。階段降りて地下行ったらバーカウンターあって、ワンドリンクはチケ代に入っていたから、あたしはカシスソーダにした。  フロアに入ったらもうたくさん人がいて、あたしはデフメナ好きだけど前の方のギャルやギャル男には馴染めない気して、騒ぎに来たんじゃないです曲を聴きに来たんですって澄ました態度で、後ろの方に立ってちびちびカシスソーダ飲んでいた。ちらちらスマホの時計確認して開演から五分すぎて、やっと照明が落ちて、DJの荒川さんがビートを流した。ステージが青く光って、端からデフメナが飛び出してきた。白いダボついたシャツに、ダボついた黒いズボン。ナイキのジョーダン履いて。アルバムの最初の曲、Feel so badを歌い出した。デフメナは背が高くてひょろっとしていた。あたしの右目からは涙が溢れた。デフメナはきれいだった。ラップの神様に愛された人。オートチューンなくても、デフメナの声も言葉も決してぶれない。涙拭いてふと隣見たら隣の女の子も泣いていた。前の方では人の頭と腕が揺れてたくさんのスマホの画面が光ってる。ラッパーのライブは、基本撮影と拡散が許されてる。視線を戻したら、隣の女の子もあたしを見てた。三つ編みおさげで、赤いチェックのワンピース着ていてかわいいけどどう見てもギャルではない。あたしもその子もこの場所に馴染んでなかった。ライブが終わったあとはなんとなく二人で物販並んで、二人でライブハウスを出て、あたしは思い切って声をかけた。 「デフメナいいですよね」 「はい。かっこよかったです、でもわたしはじめてなんです」 「ライブが?」 「いや、ちゃんと曲をきいたのも」 「えっ、じゃあなにがきっかけできたんですか?」 「彼氏が好きで。チケットも彼氏のなんだけど、風邪ひいちゃったから急遽わたしが」 「あー、なるほど」 「ふふ、でも来てよかったです」  女の子はCDケースで口元を隠してはにかんだ。歌詞カードにはデフメナのサインがあって、あたしとお揃いだった。



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