翻訳を通してなにを得るか
小説家志望の少年が、ある日、近い存在だった画学生の従兄弟に助言を求めると、こんな答えが返ってきました。
「小説家になりたいなら、大学で外国文学を勉強して、外国小説の翻訳をやって、小説の書き方を勉強せよ」
これは、『思考のレッスン』(文春文庫)に出てくる丸谷才一さんの小学生時代のエピソードです。丸谷少年は絵画における模写を小説に置き換えた具体性のある回答をもらった訳ですが、これは実に的を射たアドバイスだと思います。
絵画と小説は異なるものです。しかし、事実として、多くの書き手が、模写のように、海外作品の研究や翻訳を通して大きな影響を受け、自分の作品を書いてきました。夏目漱石はイギリス文学から、村上春樹さんはアメリカ文学から多くを学び、自身の創作につなげています。これはある種の「伝統」と言えると思われます。
その「伝統」を継ぎたいと思ったのが、この企画のはじまりです。今回は渡辺信二先生にお願いして、詩の翻訳と新作詩を書いていただきました。
翻訳と創作の変奏をおもしろく読んでいただけたら嬉しいです。そして、自分でも翻訳をしてみよう、作品を書いてみようと思う方が増えたなら、とても嬉しく思います。