来たるべき妖精たちの本 怪奇小説集
- 南1-2ホール | H-13 (小説|ホラー・怪奇)
- きたるべきようせいたちのほん かいきしょうせつしゅう
- 阪井マチ
- 書籍|文庫判(A6)
- 104ページ
- 400円
- 2026/11/8(日)発行
《未来》そして《妖精たち》―――6篇の異景を覗くための怪奇小説集。
「魚」
かれには声を出す間もなかった。幹のなかを充たしていた澄んだ肉は、すっかり溶けて冷たい液体になっていた。それが樹の破れ目からとめどなく流れだしていった。透明だが酷く重いその液体は少年を呑み込んでどこまでも広がっていった。
「放送」
早速、水に足を差し込もうとしたがそこで、光に気が付いた。おそらくプールの中央付近。水面に白い光があった。息を呑んだ。誰かがいたのを見逃したか。しかしそれは人ではなかった。テレビだった。プールの真ん中に浮かんでいたのは、電源の付いたテレビだったんだ。
「茶外茶」
さて、実験をしましょう。人間が世界を注視すること。聴覚を一心に傾けること。それらが妖精を生み出します。妖精はあなたの注意そのものです。目を惹きつけ、わたしたちの心を奪う機械。それこそが妖精の社。視ることはまさしく儀式なのです。
「未来視」
しかし、その後、満身創痍のあなたの意識が、非常な努力によって立ち上がる。そのとき初めて、生まれて初めて、あなたの意識は自由を得るのです。あなたはもう落下を強いられない。肉体の底という足場を得るのです。
「冷媒」
するとどこかで、華やかな匂いがくんと香る。
「馴染みの無い香りだが。家主氏は花も蒐集を?」
「これは、鳥ですね。なんでも、大陸の奥深くに群棲していた、樹に生る小鳥を捕まえてきて栽培しているのだそうです」
「結び目」
目をこらすと、それはたなびく糸や紐のようなものが寄り集まった姿をしているのが分かりました。見たこともない物体に私は困惑したのを覚えています。それにどうも、絡みつかれている本人も、同乗しているもう一人のおとなも、そこにそんなおかしなものがいることには気付いてもいないようなのです。
