「俺でも魔王でも変わんねえだろ、どうせ勝てないんだから」
「……別に。おまえは怖くないもん。アタシの下僕だし」
「下僕?」
「アタシのこと世界一愛してるなら傅いて脚にキスするのが筋でしょ?」
「あっそ。にゃんしか言えねえようにしてやる」
「ギヴァルツ公爵家、シェリン嬢! 私は今日、この場でお前の罪を明らかにする!」
わあ〜! 始まった!♡ 拍手拍手! これぞ、わたくし悪魔っ娘の転生人生、3度目の断罪イベント!
さっきまでの豪奢な舞踏曲は止まり、貴族たちがアタシたちの周囲に半円を描くように集まっている。広間の中央には第一王子。その隣には、白いドレスに身を包んだ聖女。聖女は胸元で両手を組み、すでに瞳を潤ませている。
「シェリン嬢。お前は聖女エンジェリーナに対し、度重なる嫌がらせを行った。茶会での侮辱、廊下での恫喝、聖堂へ向かう彼女を階段から突き落とそうとしたこと。さらに、彼女と私の関係に嫉妬し、王家との婚約者という立場を使って圧力をかけ──」
「しょぼっ」
思わず出た言葉に、王子の言葉が止まった。聖女も聖女で、ちょうど涙を落とそうとしていた顔のまま固まっている。
アタシは扇を開き、口元を隠した。「あら、ごめんなさい。続けてくださる?」
「……今、何と?」王子はこちらを睨みつけている。
「罪状が、随分ショボいものだなと……」
アタシの一言で、広間の空気が変な形に歪んだ。
あははっ。ついポロッと言っちゃった! どうしよっ、このまま突っ走ってみる? だってどーせ破滅だしぃ? 捕まって牢屋にぶち込まれる確定演出まで出てる。
「シェリン嬢、何をおっしゃいますの……?」
「聖女様、早いですわ! まだ断罪劇は始まったばかりです。今泣いてしまったら後半持たないでしょう!」
聖女の涙が止まり、王子は一瞬ぽかんと口をひらいた。
──今回のループ3周目。アタシは中身が|悪魔《べつじん》だとバレないように、だがしかし聖女への嫌がらせだけはせず、潔白の身でここまで来た。
でもここで、いくらお上品に無実を訴えても破滅は免れないのだ。そう、これはもう既に試した!
王子はあくまでゆっくりと聞き返す。「〝ショボい〟とは、どういうことだ?」
「ショボいとは、冴えない、貧相、勢いがない、みすぼらしくてぱっとしない、という意味でございますわね」アタシはそう言って、恭しく微笑んだ。
「どういうことだ。今お前の罪状を上げていたのだぞ! それをしょぼ……冴えない、とは……」
「え、だってショボくないですか? お茶会で侮辱、廊下で恫喝、階段から突き落とそうとした──。わたくし、この国の国防の要を握っている、かのギヴァルツ公爵の娘ですわよ? その公爵令嬢を、こんな王宮夜会の中央に立たせて公開断罪するための罪状が……たったこれだけ!?」
王子は初めて、アタシの後ろに控えているであろうギヴァルツ公爵──パパのほうへ視線を移した。
実はこのパパが諸悪の根源なのだ。アタシが無実を糾弾した|過去《三周目》のループ──他ならぬ|器《シェリン》の父親である、この国最強の冷酷公爵が偽の証拠をでっち上げ、娘を破滅させたのである。
他にアイディアが浮かばなくて、今回の三周目も、ずるずる二周目と同じ経緯を辿っちゃったんだよね〜。だからこのまま破滅するのが確定してるってワケ。ラスボスパパの顔に泥を塗るためにも、公爵令嬢な悪魔っ娘、このまま断罪劇のアドバイスしちゃいま〜す。
③猫コスプレシェリン
「にゃーん!」
魔王城下街でたまたま見かけた、黒猫のカチューシャと猫耳、尻尾、そして猫らしいファーの着いたネグリジェを付けてラムズの前に登場した。
宝飾品を並べた机の前で座っていた彼は、一度だけアタシを視界に移し、それからまた気怠げにネックレスに視線を戻した。
「いんじゃない、かわいい」
はあ〜? 反応それだけ? 「にゃーん」まで言ったんだぞ? このアタシが! 耳腐ってんの!?
アタシは色欲値の高い悪魔だ。だから人を魅了させるために服で着飾ったり、メイクをしたり、官能的に踊ったり歌ったり……そういうのは大体好き。猫耳とか猫の尻尾とか、悪魔の中にも愛好家はいる。しかもアタシは顔がイイから余計に悦ばれる。そんでナニが反応したり、アタシを誘ってきたりするとさらにアタシは愉しい。(相手にするかどうかはさておき)
だというのにコイツは……。性欲がないにしても反応薄味すぎじゃない?
「死ねカス」
「……は?」
目の前で吐き捨てると、ラムズが顔を上げた。揃いの青眼と視線が交わる。
「0点。もうおまえとはしばらくヤんない」
せっかくかわいい格好したのに! 三六〇度どこ見てもかわいいのに! かわいい上にセクシーで色っぽくて、Mっ子にも女王様にもなれる超有能美少女なのに! ラムズよりもっとメロい反応してくれるヤツがいるから、そいつと遊ぼー。
長い脚をすたすたと動かしてラムズの部屋の扉を開こうとしたら、腕を掴まれた。
「どこ行くんだよ?」
「おまえよりマシな反応するヤツとヤりにいくんだよノンデリカス」
「ちゃんと見てなかったんだって。寂しいから行くなよ」
「やだよ。おまえはネックレスとイチャイチャしてろ」
「俺のために着たのか?」
んなわけねーだろ。アタシのために着てんの。アタシが気持ちよくなるため♡ 人に見られてボディラインがいいねとか、猫耳と悪戯っ子な性格が合ってるねとか、ヤりたくなっちゃったとか、チヤホヤされて気持ちよくなるために着てんだよばぁか。
「そーだよ? なのにおまえガン無視するからうんざりした」
ラムズはアタシの体を裏返すと、上から下まで、猫コスプレ仕様で着飾ったアタシの体を見た。
「シェリンは何着てもかわいいだろ。裸でもかわいい」
「……50点」
「何がだよ?」
「おまえ人を誑し込むのが得意なんじゃねーの? 下手くそ!」