こちらのアイテムは2026/11/8(日)開催・文学フリマ東京43にて入手できます。
くわしくは文学フリマ東京43公式Webサイトをご覧ください。

DEVILBOUND

  • 南1-2ホール | M-69 (小説|ファンタジー・幻想文学)
  • でびるばうんど
  • 夢伽莉斗
  • 書籍|B6
  • 150ページ
  • 1,800円
  • https://herrealmyth.studio.si…
  • 2026/10/31(土)発行
  • 人類軍の勝利は、
    その捕虜の悪魔に懸けるしかないのだ。

    魔王軍の猛攻で、人類軍の戦況は悪化の一途を辿っていた。
    そんななか、最後の頼みの綱として、捕虜となった魔王幹部ラムズを収容所から引き出した。
    美しく身勝手で、誰よりも頭の切れる悪魔が求めたのは、まともな服と、まともな部屋。
    そうして彼が提案した奇策は──人口5000人の都市マーメリアンを滅ぼすこと。

    「街を滅ぼせ。食べ物も、水も、人間も、すべて燃やせ」

    総司令官セドリックは悪魔を信じるのか。そして悪魔を信じた先にあったものは。


    ※ラムズ(イラスト)のヒロインはシェリン(イラスト)です。BLやブロマンスのつもりでは書いていません。
    ※この書籍単体で楽しめます。


    こんな要素が好きな方へ

    ・ダウナー冷淡で、トリックスターな悪魔
    ・ド攻めクール悪役
    ・ファンタジーならではの戦争作戦もの
    ・シリアスなファンタジー
    ・バッドエンド、メリバ
    ・倫理のぶつかり合い
    ・ちゃんと最低最悪な悪魔
    ・人外思考な悪魔
    ・悪役が活躍する物語

    「私たちは人間だ! お前らのような戦い方はしない。街ひとつ犠牲にして勝つくらいなら、私たちが敵軍と戦って──」
    「死ぬ? 北方方面軍は全滅。魔王軍の侵入を許し、そしてアポロニア王国が滅ぶ。だがその引き換えに、お前たちは人間としての矜恃を守れる。おめでとう」

    【書籍情報】
    ・約B6サイズ
    ・6万字、150P



    試し読み


     悪魔のいるテントに戻ると、私はラヴァイエ=メイゼの前にグラスを置いた。

    「なにこれ」
    「聖水だ」

     悪魔は、あからさまに嫌な顔をした。

    「お前まで飲ませる気か?」
    「鎖を外すための条件だ。飲めば多少は動きが鈍るだろう?」
    「……まずいからやだ」

     私は目を胡乱に細めた。なんて我儘な物言いだ。見かけ倒しとはこのことか。

    「飲まなければ許可できないと言われた」
    「今回飲んだら終わりか?」
    「いや。数時間ごとに飲んでもらう」
    「……逃げねえよ。魔法も使えねえのに」

     悪魔は、乾杯するように杯を持ち上げた。

    「お前のために飲んでやる。板挟みで可哀想なセドリックのために」

     ガラスの縁に唇を付け、軽く傾けたあと、そのまま一気に飲み干した。軽く咳をして目を伏せている。指の黒い鉤爪が伸びたり縮んだりした。

    「…………いちばん、ひどいやつか、」

     声が掠れていた。悪魔は腕を力なく持ち上げ、銀の枷と枷のあいだの鎖を、じゃらりと流した。

    「これは?」
    「動かすのに支障はないはずだ」
    「……まあいいか。銀だし」

     手脚が動かせるようになると、彼は両腕を軽く回し、それから気怠げに頬杖をついて机の地図を眺めた。

    「それで」

     露骨に機嫌を悪くしているのは、おそらく演技だ。ああやって聖水を飲ませるたびに、わざとらしく自分も譲歩していると見せつけるつもりなのだろう。

    「君の作戦の詳細な話を聞かせてくれ」
    「街を焼く気になったのか?」

     私は息をひとつ吐いてから、そっと答えた。

    「検討したい。どれだけ勝率があるのかを知りたいんだ」
    「この先は有料だ」

     悪魔は欠伸をするような素振りをした。この悪魔は、三日以上は睡眠を取らずとも平気だと聞いた。いちいち癪に障る悪魔だ。

    「それでは取引ができない」
    「じゃあお終いだな」

     私は机に手を付き、語気を強めた。

    「ここで話が終われば、君は目隠しをされ、鎖で拘束され、またつまらない独房に戻るんだ。それでいいんだな?」
    「人間様の矜恃とやらで、あの策は使えねえんだろ? これ以上話す必要があるか?」
    「お前の話が有用かどうかは私が決める。拘束は解いただろう。次は君の番だ」

     ラヴァイエ=メイゼは、コツ、コツ、と尖った爪で机を軽く叩いた。

    「……問題は三つだ。あの作戦をお前の兵士に命令しても、やってくれない。そして、お前も命令したくない。仮にこのどちらも叶ったとて、人間の兵士が街ひとつ犠牲にして戦に勝ったと知られれば、お前らはもう国を救う英雄ではなくなる。五千人を殺した虐殺者だ」
    「……あぁ」

     悪魔は、地図にあるマーメリアンの文字を黒い爪でつぃとなぞった。

    「じゃあ、俺が虐殺者になろう」




    ◆別シーン◆


    「君の願いをいくつも叶えてやった。こちらの要求も聞け」
    「何」

     彼は顔も上げずに答えた。

     「魔力をくれ。明日の戦に備え、魔道具を万全のものにしておきたい」
    「そんなことか。いいよ。はい」

     彼はすんなり手を出した。
     銀の枷を磨かせることと、この悪魔から魔力をもらうこと、後者のほうがよほど大きな要求に思える。枷を磨いてもなんの得にもならない。

    「なんとも素直だな」
    「自分で言ったんだろ。願いを叶えたから、代わりにくれって」

     私は枷を磨く彼を黙って見ていた。この悪魔は、ある種の〝対等〟を演じようとしている。それが彼にとっての〝誠実〟という解釈なのか。

    「副長官の話では、収容所では嫌がっていたと聞いた」

     収容所でも、この悪魔は何度も魔力を吸収されている。抵抗はできないものの、不機嫌そうにしていたと話していた。

    「そりゃな。あんな狭苦しいところに閉じ込められて、魔法も使えず、何も与えられず、俺は魔力を溜める装置代わりだ。誰だって嫌だろ」
    「今は嫌じゃないと」
    「お前がそこそこ好きなようにさせてくれるからな」

     彼は顔を上げ、造り物の唇から甘く囁いた。

    「俺は自分のほしいものを差し出してくれる相手には、なんでもしてやるぜ。欲しいものはなんでも与えてあげる。それが愛でも平和でも魔力でも、俺にとっちゃ同じことだ」

     冷たい声音が歌うように流れて、また銀を磨くほうに戻ってしまった。
     演技がかった仕草だが──どうもこれは、真に迫っていたような気がした。




    ◆別シーン◆

     撤退指示を行い、村の生存者を連れて陣地に戻った。朝日が昇っている。生存者の数と、死んだ兵士の数を数えた。今日も、死んだ兵士の数のほうが多かった。

    「次の村への避難指示は済んでおります。ですがこのままだと、明日にはまた魔王軍が、現在北上中の避難民に追いつきそうです」
    「……ああ。わかった」

     ──今日救えた民がいる。失った兵士の数が多くとも、私たちは民を、国を守ることを使命に戦っている。あの策を決行すれば、今日救ったあの夫婦は置き去りにされていたのだ。少女が新しい家を見ることはなかった。
     ……必要な犠牲。理性的な判断。合理的な答え。助けられるかもしれない五千人を見捨て、未来の国を救う。戦えない五千人のために、戦える五千人が命を落とす。これは今までもあったことだ。私たちの責務であり、使命であるからこそ、そこに疑問を持ったことはない。
     ──だが今回は、未来の民がかかっている。マーメリアン以降の、領都までに広がっている村町の民が。

ログインしませんか?

「気になる!」ボタンをクリックすると気になる出店者を記録できます。
「気になる!」ボタンを使えるようにするにはログインしてください。