動き出したいと思っている人がいる。
何かを変えたい。
新しいことを始めたい。
いまいる場所から、少し違うところへ行きたい。
けれども、何を動かせばいいのかは、まだよく分からない。
一方で、動く必要をあまり感じていない人もいる。
世界は、ある程度まで構造として見えている。
組織がなぜこう動くのか。人がなぜ噛み合わないのか。制度がなぜ期待した通りに働かないのか。
その構造が見えているなら、自分まで動く必要はないようにも思える。
この本は、その両方の人に向けて書かれています。
変わっているのは、目の前の対象だけではない。
この本は、AIについての本として始まります。
けれども、AIそのものを説明するためだけの本ではありません。
AI、人、本、組織、他者、自分自身。
異なるものが触れたとき、問いがどう変わり、意味がどう動き、まだ言葉になっていなかったものがどう姿を現すのかを見ていきます。
だから、「とにかく行動しよう」と背中を押す本でもありません。
世界の構造を説明して、「こう理解すればいい」と答えを渡す本でもありません。
何を固定したまま、何を動かすのか。
違和感は、消した方がいいノイズなのか。
人と人が噛み合わないとき、本当に足りないのはコミュニケーションなのか。
AIからきれいな答えが返ってきたとき、問いはそこで終わっていいのか。
そして、世界を構造として見ている自分自身は、本当にその構造の外側にいるのか。
この本では、摩擦やずれを、ただ取り除くべきものとして扱いません。
うまく噛み合わない場所には、それまで見えていなかった評価軸や前提、文脈の違いが現れることがあります。
答えを出す。
少し違うと感じる。
別の場所から見る。
一度置いたものを動かしてみる。
それでも残ったものを、しばらく持ってみる。
そうしているうちに、変わるのは対象だけではありません。
何を問題だと思うか。
どこで立ち止まるか。
何を拾い、何を流すか。
見る側の位置も、少しずつ変わっていきます。本文でも、対象への判断と自分の現在位置は完全には切り離せないものとして扱っています。
動こうとしている人には、動く前に見えるものがある。
動く必要はないと思っている人には、位置が変わったときに初めて見えるものがある。
この本を読み終わったとき、正解が一つ増えているとは限りません。
その代わり、前ならそのまま通り過ぎていたところで少し止まったり、問題だと思っていたものを別の場所へ置いてみたり、構造だと思っていたものの中に、自分自身を置き直したりするかもしれません。
三本脚になった黒い鳥は、
もとの黒い鳥と同じなのでしょうか。
それとも、もう別のものなのでしょうか。