鎌倉・材木座。
海の見える小さなカフェ「凪」で働く千夏は、客とは必要以上に踏み込まない距離を保ちながら、静かな日々を送っていた。
十一月のある日、一人の男――朔が店を訪れる。
毎週水曜日、同じ時間。
窓際の同じ席で、同じコーヒーを頼み、海の向こうをじっと見つめる。
やがて千夏は、朔がこの店にかつていた「誰か」の痕跡を探していることを知る。
そしてその過去は、千夏自身がうまく思い出せない数年前の記憶とも、静かにつながり始める。
覚えている人と、覚えていない人。
探している人と、かつて誰かに見つけてもらった人。
冬の鎌倉を舞台に描く、記憶と喪失、そして人と人とのあいだに残るものの物語。