六月の神様に嘘をついて口付けた。私も楓ちゃんも、きっと天国には行けない。
行き着く先が地獄でもいいから、楓ちゃんと一緒にいたかった。
下北沢の中でもマイナーな、小さな箱があたしの世界の全てだった。
誰かが溢したレッドブル・ウォッカの甘い匂い。それに混ざる、紙煙草の肺を灼く匂い。
ただそこに居るだけで寿命が縮むような、刹那的な空間でしか生きられない。細く長くなんて生き方は、死んでも御免だった。
天国があるとすれば、誰かが散々まぐわったベッドの上かもしれない。
入り口で部屋を選ぶことも、映画館のような照明も、同性に裸を見られる恥ずかしさも、女の柔らかさも、どれも夫ではなく憂が教えてくれた。
web再録2本+書き下ろし1本
文字のみの表紙にイラストのクリアブックカバーが付く予定です。