若き写真家・雨宮真実子が撮るのは、いつも「誰かがいなくなったあとの風景」だった。
夕暮れの病室、枯れた花、海辺の壊れた椅子、止まった時計――。美しいとは言われても、その写真には決して人の姿がない。
真実子には、幼い頃に亡くした母・香織の記憶がほとんど残っていなかった。覚えているのは、炎の赤い光、焦げた木の臭い、そして煙の中で誰かの手を離してしまった感触だけ。
そんな彼女のもとへ、ある夜、差出人のない黒い封筒が届く。
「午前0時までに、6枚の『死』を撮影してください。」
指定された場所は、母が命を落とした山中の洋館――黒鳥館。
真実子は母から譲り受けた古いポラロイドSX-70を手に、20年前に封じられた館へ向かう。
消えかけた蝋燭。
ただ一本だけ咲き続ける赤い薔薇。
午後8時43分で止まった時計。
同じ白いドレスを着た少女たちの肖像。
そして、写真の中にだけ現れる母の姿。
シャッターを切るたびに、一枚の写真が吐き出される。
真っ白だった画面にゆっくり像が浮かび上がるたび、忘れていた過去と、館に閉じ込められた少女たちの秘密が明らかになっていく。
なぜ少女たちは「真白」と呼ばれたのか。
母はなぜ黒鳥館へ戻ったのか。
そして、六枚目に写すべき「死」とは何なのか。
MEMENTO MORI――死を忘れるな。
けれど、死を忘れないことは、死に囚われ続けることではない。
写真に残すこと、失うこと、忘れること、そして生きること。
古いインスタントカメラを巡る記憶を通して描く、ゴシック・ホラーミステリーです。
「大切なものは、見えるまでに時間がかかる。」