☆文学フリマ初売りです!昔の作品ですが…(汗)
あるところに小さくて力も少ない神さまのしもべがいました。しもべは自分の居場所を探して、みすぼらしく居心地の悪い窪地にたどりつきました。湿気ていやな臭いのするその土地をしもべは好きになれませんでしたが、一生懸命に手入れをして調えます。思わぬ仲間もできてうまくいきかけた矢先、神々の争いの影響で全て台無しになってしまうのでした……。
神話シリーズの前半辺りの時代、神々とは縁遠い末端のしもべのお話、救いのある終わり方です。
※表紙の紙の種類が見本と違う場合があります。
小さな神さまの小さな庭
はるか遠くの そのむかし
月は自ら輝いて 欠けることなく地を照らし
大樹は話し 野を歩み 蛇に手足があったころ
二度とかえらぬ ものがたり
大地を固めた大地の神と空気を澄ませた大風の神がまだ地上におわしていたころのことです。
神々は瑞々しく香る植物たちと朗らかに歌う鳥たちを創りだしました。その次に、世界を調える役割を果たすべく、たくさんのしもべをお創りになりました。
しもべたちは神々の手伝いができるよう、それに適したさまざまな姿かたち、性質に自身を変えることができました。掘る、運ぶ、積み上げる。砕く、固める、磨きあげる。集める、より分ける、組み合わせる。しもべたちはそんな作業を繰り返して、山や川、谷や平野を美しくしました。
そしてそこで暮らす自分たちより古い植物や生きものはもちろん、自分たちより後から創られたそれらも愛で、かいがいしく世話をしました。生きものたちは感謝と喜びを返し、それは彼らを幸せで満たしました。
大地の神と大風の神はたいへんお喜びになり、しもべたちを癒し労りました。しもべたちも生きものたちも神々を崇め愛し、このまま世界は美しく調和して、いつまでも続いていくと誰もが信じ望んでいました。しかし、地の底には奥底の神が沈み、地上をうらやんでいました。
* * *
神々の居所から少し離れたところに、大地の神に創られたひとりのしもべがおりました。ほとんどのしもべたちと同じような神に似た姿かたちでしたが、背丈は彼らのひざぐらいでずいぶんと小さく、ほっそりしていて色は白く、ふわふわの銀色の髪、星の光のような銀灰色の瞳をしていました。声は高くてよい響きでしたが、恥ずかしがり屋でいつも小さな声で話しました。
そのしもべは他の者よりとても力が弱くて姿を変えることもできず、これといって得意な業もありませんでした。なので、力のいる大掛かりな仕事や巧みさが必要な繊細な仕事には呼ばれず、誰かの手が足りないときの簡単な手伝いや使い走りばかりしていました。その言いつかった仕事も出来が悪かったり、失敗することが多く、他の者から足手まといとつまはじきにされていました。それでも小さな仕事はたくさんあったので、小さなしもべは忙しく毎日を送っていました。
時が経ち、世界が調えられていくうちに、しもべたちの仕事もそれぞれの領分が決まってきて、自分の受け持ったところに専念するようになりました。簡単な仕事はあらかたなくなり、そうなると小さなしもべは呼ばれることも少なくなって、かといって落ち着ける行き場もありませんでした。
小さなしもべは身をもてあますようになりました。考える時間が増え、どうして自分はこんなにも力なく不器用なのか、大地の神さまは何のために自分をおつくりになったのか、という思いが強くなってきました。
他の力あるしもべたちは神々の居所までひと飛びに詣でて、力や知恵を頂くことができましたが、小さなしもべにはとても遠い道のりでした。なのでその代わりに一日に一度深い祈りを捧げていました。すると大地の神の優しい気持ちがほんのりと心に灯り、それが自身の力となるのでした。
祈りの際にその疑問を訊ねてみたかったのですが、いつも恐れ多くてできませんでした。本当にお伺いしたところで、ちっぽけな自分の呼びかけは神さまには届かないだろう、とあきらめていました。
ただ、小さな彼が創りだされた時のこと。大地の神はほほえんでこうおっしゃいました。
「わたしのいとし子。わたしのかわいい種」
そして、大地の神は抱きかかえたしもべの頭をやさしくなで、ほおずりをして口づけをくださったのでした。それが小さなしもべのいちばん古く、いちばん幸せな思い出でした。けれど、その時の言葉『種』の意味がしもべにはよくわかりませんでした。他のしもべに訊こうにも、大地の神のお言葉を理解できないなどと決まり悪くてとても言い出せませんでした。
* * *
そんな日々を送るうちに、いつまでも無為に過ごすことはできないと、小さなしもべはその辺りをまとめるしもべの長に何か役割が欲しいと願い出ました。
小さな彼の存在などほぼ忘れ去っていたしもべの長はその申し出に驚き、また億劫だと思いましたが、それをおくびにも出さずに何かないかと頭をひねりました。そしてこう言いました。
「呼ばれるのを待ち、言われたことをするばかりではおまえのためにならないでしょう。自分で自分にしかできないことをみつけなさい」
小さなしもべはそれもそうかと、まずは近くのしもべたちに手伝いはないか、仕事はないかと聞いて回りました。不器用なこのしもべに自分たちの仕事を邪魔されたくない彼らは首を振り、他を探せと口々に言いました。あっちで手が足りないと聞いて駆けつけても、間に合っていると断られたり、おまえの不器用な手はいらないとはねつけられたりするばかりでした。放って置かれていそうなところを見つけて手入れをしようとすると、目ざとく誰かがやってきて、ここは自分の受け持つ土地だと追い払われてしまうこともありました。
小さなしもべはそれまで暮らしていたところから、居場所と仕事を探してどんどん遠ざかって行きました。彼は一人きりでしたが、それをつらく思うことはありませんでした。それが小さなしもべの秀でたところでしたが、誰も、当のしもべも気づいていませんでした。他のしもべたちが仲良く楽しく過ごしているのを目の当たりにすると、さすがに心細さが身のうちに湧き起こりました。誰にも必要とされない自分がみっともなく思えて、しもべはそれらを見なくてすむようそこから離れるのでした。
いつのまにか小さなしもべは誰もいない平原を歩いていました。しもべたちも生きものの姿も見かけないそこは少し乾き気味で、風が吹くと砂埃が舞いました。植物も潅木がところどころ生えているだけでした。それでも風はさわやかで太陽はまぶしく輝き、夜には明るい月が静かに照らしていました。
神々の力は届いているのに、こんなにもわびしく殺風景なところがあるとは、まだまだ世界は調えるところがたくさんあるじゃないかと小さなしもべは安心しました。そのうちにしもべは深い窪地にたどり着きました。
そこは地の底に沈んでいる奥底の神が、怒りに任せて荒れ崩したところのひとつでした。かの神の気配は消え失せていましたが、肌を刺すような毒気がうっすら残っていました。なので恨み呪いがこもった地だと他のしもべたちは忌み嫌い、あまり近づきませんでした。しもべたちの手が入らないので、その辺り一体も荒れ寂れてしまったのでしょう。
大きな椀のような深い窪地を覗きこんだしもべはため息をつきました。他の土地から出た岩がらや砂や泥、刈りこんだ木や草を誰かが捨てていたのでしょう、粗い砂利の斜面に大小の岩や枯れ枝が崩れそうに積み重なり、底の方はねっとりとした泥水が溜まっていました。草木は一株も無く、生きものの姿もありませんでした。空気がよどんでこもった饐えた臭いが鼻をつき、しもべはくしゃみをしました。水はけも風通しも悪そうで、過ごしやすくも美しいともいえない場所でした。
誰もが関わりたがらないこの土地を、しもべも好きになれませんでした。それでも誰かが手入れをしなければなりません。ここが見違えるほど美しくなったら、きっと大地の神さまはお喜びになるだろう。しもべはこの土地をしっかり調えようと心を決めました。
* * *
小さなしもべは窪地を見て回りました。昼間はかんかんに日が当たって岩の照り返しもあり、とても蒸し暑くなりますが、夜は湿気で底冷えがする厄介なところでした。岩と砂利と砂ばかりで大きな木が根を張れるような、平らで広く柔らかい土の場所はありませんでした。
一体全体何からどう始めたらいいのか、力も業もない小さなしもべには見当も付きませんでした。とりあえずは、崩れそうな岩を少しずつ下に落として安定させることにしました。その後で砂や砂利を隙間にまいて均せば、適度に湿った平地にできるかもしれません。
小さなしもべには大変な重労働で、毎日少しずつしか作業は進みませんでした。手伝ってくれる者はおりませんでしたが、失敗しても怒られることはないので気は楽でした。
サンプルはここまでです。
ピクシブにはもう少し長く載せています。