本書は、ペルー・アマゾン地域のロレート、ウカヤリ、サンマルティン地域を対象として、19世紀末のゴム景気から20世紀後半に至るまでの経済・社会・政治の変容を分析した研究書である。著者らは膨大な歴史資料や統計データを用いながら、辺境とみなされてきたロレート地域がどのように国家へ統合され、市民社会を形成していったのかを明らかにしている。
本書の中心的な問題意識は、採取経済が暴力と依存を再生産し持続的発展を阻害するとするスティファン・バンカーのフロンティア経済論への再検討にある。著者らは、ロレートでは採取経済への依存から脱却し、経済の多様化や社会統合が進展したと主張する。
第1部ではゴム経済の形成期が扱われる。ゴム採取と輸出の発展過程が詳細に描かれる一方で、アビリタシオン制度の下で行われた先住民への搾取や強制労働、共同体の破壊など、ゴム景気を支えた暴力的な社会構造が明らかにされている。また、コロンビアやエクアドルとの国境紛争、レティシア割譲問題がロレート住民の地域アイデンティティ形成に大きな影響を与えたことも論じられている。
第2部ではゴム経済崩壊後の停滞と転換の時代が分析される。輸出中心経済から国内市場志向へと経済構造が変化し、交通網の整備や教育普及によって住民の政治意識が高まった。さらに、パトロン支配から解放されたリベレーニョの出現や先住民の権利要求などを通じて、地域社会の統合が進展したとされる。
第3部では、軍事政権期以降の地域主義運動や民衆組織の発展が取り上げられる。石油開発に伴う採掘料配分をめぐる政府との対立は、異なる社会階層を地域主義のもとに結集させ、ロレート独自の政治的・社会的アイデンティティの形成を促進した。また、先住民共同体の設立や市民組織の発展は、「辺境の馴化」と呼ばれる社会統合の進展を示す事例として位置づけられている。
以上から本書は、ペルー・アマゾン地域を単なる搾取と停滞の場としてではなく、住民の主体的な活動によって国家統合と市民社会の形成が進んだ地域として再評価している。その点で、本書はペルー・アマゾン研究のみならず、フロンティア論や資源依存型地域の発展研究に対しても重要な示唆を与えるものである。