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第二回ララバイボーイオーディション -願いのカナタへ-

  • 南3-4ホール | く-81〜82 (小説|SF)
  • だいにかいららばいぼーいおーでぃしょん ねがいのかなたへ
  • 久納 一湖
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 304ページ
  • 1,000円
  • 2026/9/10(木)発行

  • 【新刊】

    「絶対にアイドルになる!」

    涙と汗がほとばしる!日本で一番胸がアツくなるオーディション、開幕!
    三年前。カナタはある理由から決勝ステージで歌詞を忘れる大失敗をし、夢を諦めていた。

    しかしスクールの同期だった和泉と鉢合わせたことをきっかけに、彼は再び夢への情熱を奮い立たせ、オーディションへ再挑戦することを決意する。
      夢に向かってまっしぐら! カナタの熱い挑戦が幕を開ける!  

     青春、スポ根、胸アツ、あなたの推しは? 
    ライバルと切磋琢磨しながらオーディションに挑戦していく王道ストーリーは、読むと元気になるだけじゃなく、メインキャラ4人を推したくなること間違いなし。歌ありダンスありイケメンあり!笑って泣ける青春群像劇です。これは、情熱の殴り合いだ。



    登場人物
    カナタ・・・主人公。普段はちょっとぬけてるけど歌うと豹変する。にんにく大好き17歳。
    トモヒロ・・・ダンスが得意で明るい関西人。17歳。
    ヒカル・・・元子役のちょっと生意気な14歳。
    アオイ・・・モデルもこなすスーパーイケメン20歳。

    【こんな人向け】
    ・夢に向かって頑張ってる人
    ・誰かを応援するのが好きな人
    ・バッチバチに燃えてぶつかり合うキャラを見たい人
    ・オーディションが気になる人

    【冒頭】

     歌詞が飛んだ。最終審査だった。歌詞だけでは飽き足らず、フリも何もかもが泡のように消えていった。その瞬間、カナタはステージの上で棒立ちの蛋白質となり、哀れみと軽蔑の視線を向けられ、虚しく自分を照らし続けるスポットライトの熱でじりじり焼かれた肉の塊と化した。まもなく炭化するであろう頃に、スタッフに腕を掴まれてステージ袖に追いやられた。何回か、名前を呼ばれたかもしれない。だがカナタには、何も聞こえていなかった。握っていたマイクは、いつのまにかどこかへ行ってしまった。  それが、カナタがステージに上がった最後だ。三年前だった。


     自分の順番が回ってくるまであと二人。本当に、新学期のクラス替えってのはいけ好かない。学校中が浮かれて、そわそわしている。女子はすぐに集団を作ろうとするし、男子はとにかく廊下を走る。今朝も靴を履き替えて、クラス確認のため掲示板に向かおうとしたところ、ぶつかりそうになった。男子はカナタに目もくれず走り去っていった。そいつが今、自席の前にいる。落ち着きのなさが、背中を見るだけでも伝わってくる。そいつが名前を呼ばれて立ち上がった。ナカタとかノジマとか、とにかくナ行の名前ということは理解できたが、それだけだった。クラスメイトN、あたりか。

     つまり、カナタも緊張していた。人前に立って名前を言うなんて、そんなことは三年前までは日常茶飯事だった。いかに人に自分を覚えてもらうかが最優先で、自分のキャッチフレーズや自己PRなんてものも、何パターンも考えて審査のたびに元気よく発表していた。今、それをやったらどうなるだろう。そんなことを考えていると、名前を呼ばれた。

     歌が大好き、星見奏汰です! 今日は、大好きなこの歌で、みんなに元気な気分になってもらえるように、楽しんで歌います! 聴いてください!

     などと言うわけもなく、カナタはゆっくり席を立った。クラス全員がこちらを見る。そんな期待を込めた目でこっちを見ないでほしい。何も面白いことなんて、言えないよ。何を話せばいいんだろう。みんな趣味とかテレビとか言ってたな。なるべく目立たないように無難なことを言えばいいか……。カナタは作り笑いを浮かべた。 「ほしみかなたです。部活とかやってないです。家が銭湯なんでよかったら遊びにきてください。よろしくお願いします」

     まばらな拍手と共に「割引きくー?」と誰かが声を上げた。「学割で」と返事をすると、軽く笑いが起こった。無難にこなせたと、カナタは胸を撫でおろしたが、別の声がする。
    「なー、待って待って。カナタっていったっけ? カナタくんさー、歌やってない?」  その瞬間、カナタの心臓が跳ね上がった。椅子に座るタイミングを逃し、カナタは声のするほうへ振り返った。あの並びはクラスメイトSか。少しひきつった顔をしたカナタを見てSは「ほら、やっぱりー。俺知ってるー。見たことあるー」と言い出す。クラスがざわついた。担任もミーハー心が動いたのか「え? 星見くんは芸能人なの?」と言ってくる。少し黙っててほしい。「違うよ」と言う前にクラスメイトSが意気揚々と話を続ける。

    「何年か前のオーディションにさ、俺の兄ちゃん出てたの。すーぐ落ちたけど。でも兄ちゃんと一緒に決勝見たんだよ。そしたら一人やっべーのがいてさ。別の意味でやっべーやつ」  言いながら、意地の悪い顔でカナタを見上げる。カナタは三年前のステージ同様に動くことができなかった。

    「決勝のステージにでてきて、歌い出したと思ったら、急に棒立ちで固まりだしてよ。もう周りの空気が凍っちゃって見てるこっちが恥ずかしかったってのなんのって。確か、じいちゃんが有名人かなんかで、優勝候補ってピックアップされてたから、俺よけいに覚えてんの。ねー、その時のカナタくんだよねー?」  クラスメイトSがニタニタした顔を向けると、他の生徒も好奇心を顔面に貼り付けてカナタに注目している。

    「あ、あははは。恥ずかしいなー。見られてたなんて。それってこんな感じだった?」  カナタは笑って誤魔化したあと、わざと真顔を作って棒立ちの姿勢をとった。Sが馬鹿にしたように笑い出すと、つられてクラス中に広がった。こういう子供っぽさが抜けない奴らともスクール時代ではやりあっていたので、交わし方は熟知しているカナタだったが、さすがに新学期初日でこれは少々堪えた。やっと席につくと、クラスメイトNがこちらに振り返って小馬鹿にしたような顔をしていた。
     こんな顔をした審査員が、あの時いたな。特に金持ちのマダムみたいな芸事を熟知していないタイプの人。そんなことを思い出しながら、カナタは愛想笑いを返した。子供のころから、少しでも大人の世界で過ごしていて良かったなと思えるのは、こんな時くらいだ。他人のあしらい方を学んだ。

     学生の興味は次から次へと早足で駆け抜けていく。昼を過ぎたころには、誰も彼も他人の自己紹介の内容なんざ覚えていないものだが、放課後になるとカナタはクラスメイトSたちに「親睦カラオケにいくから星見も来いよ」と誘われた。「風呂の手伝いがあるから」と誤魔化して、カナタは早々に学校を飛び出した。

     カラオケなんざ、行ってたまるか。歌なんて、人前で歌ってたまるか。それに三年前の失敗を知っている奴となんて、まっぴらごめんだ。どうせクラスでカースト上位を狙うために、早々に見下せる奴を品定めしておこうという魂胆に違いない。そんなもの、相手の顔を見れば一目瞭然だ。自分が幾百の目の前に姿を晒し、評価や審査を受けてきた数と同じだけ、自分も人を見てきたのだから。



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