『無味無臭の温室で』は、カフェとスイーツを巡るエッセイ集です。
個人経営の雰囲気のある喫茶店より、チェーン店のカフェが好き。決まったメニュー、明るく清潔な店内、誰もが店員A・客Aになれるような、いい意味での「無味無臭さ」。そんなチェーン店のカフェを入口に、そこで出会ったアップルパイやクッキー、せんべい、フラペチーノ、そしてコーヒーについて書きました。
ドトールのアップルパイからは、子どもの頃から馴染んできたマーガリンの味へ。サンマルクカフェのビスピーからは、怖かった老いへ。飲んだことのないスターバックスのフラペチーノからは、「誰かに奢ってもらう」という小さな憧れへ。食べ物の味や食感を細かく追いながら、いつの間にか記憶や年齢、欲望や寂しさではなく、もっと曖昧なものまでこぼれていきます。
カフェは、特別な場所ではないかもしれません。
けれど、誰にも干渉されず、誰でもない誰かとして過ごせる場所だからこそ、そこにいる自分のことを少しだけ考えられる。美味しいものを食べて、コーヒーを飲んで、少し考えて、また日常へ戻っていく。そんなカフェで過ごす時間を、6篇のエッセイにしました。