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このこラパン

  • 南3-4ホール | す-07 (詩歌|現代詩・散文詩)
  • このこらぱん
  • 鰤川てる
  • 書籍|A5
  • 100ページ
  • 500円

  • 詩、散文、短編小説などいろんなものが入った一人文集です。ちょっと混沌とした仕上がりになりました。

    [目次]
    ・私の沈黙
    ・お花が泣いた
    ・このこラパン
    ・たべてみそ
    ・新世界
    ・具合最悪実験
    ・少年
    ・ファンタスティックコスモワールド…などなど

    [試し読み]

    私の沈黙

    私の沈黙に付き合って。

    生唾を飲み込む音に耳をすまして、息を吸うことをためらって、じっと動かないで、蚊に刺されても眉ひとつ動かさないで、年が明けても喜ばないで、ご飯が炊けても知らん顔して、ごちそうさまが聞こえても目を閉じていて。

    だって、私の沈黙に付き合ってくれるのでしょう。そう言ってくれたじゃない。私の早とちりなんかじゃないわ。

    沈黙は澄んだ水なの。

    余計なものが底へ落ちるまで動かないでいることがみそなのよ。みそ汁みたいにね。だから私はみそ汁の、みそとお湯が美しく分かれる時を待ってから飲んでいるのよ。あまり美味しくないけどね。

    水以外はなにもいらない。

    音もいらない。味は必要ない。言葉も不要。ただの水であることが肝心。

    そして、私の沈黙が出来上がったら、茶さじで丁寧にゆっくりとすくってみるの。

    沈黙が揺らいで、底のものと混ざらないよう気をつけてね。

    私の沈黙はそこにある。ほら、付き合ってよ。

    私の沈黙に付き合って。

    鼻からゆっくりと息を吸って、身を潜めている気分で吐き出して、息を体の中に入れっぱなしにしないで全てを出しきって、やっと息が吸えると思った時に、私の沈黙をじっくり見て。

    冷や汗が体の中まで伝ってくる。心臓まで垂れ下がって来て、その冷たさに心臓が驚いて止まってしまう気がして、次の瞬間が早く来て欲しくなる。

    次の瞬間。次の言葉、次の私。

    私が次へと向かっていく時、私の沈黙はどこに行くのかしら。あんなに待って分離させた沈黙を、私はどうして、あっけなく、放ってしまうのかしら。

    また、作れるかしら。私に出来るかしら。もしかしたら作れないかもしれないと思うと、私はまっくらになるのだけど、どうしたらいいのかしら。

    よかった。まだ、私の沈黙はそこにあった。

    もう一度、私の沈黙に付き合って。

    そこの、あそこの場所で、もう遠い昔のことだけれど確実にあったのだと、私の沈黙を書き残しておいて。

    付き合ってくれた人にしか出来ないことなの。お願いよ。

    私の沈黙。私の無言。何もないってことだって、立派な歴史でしょう。

    だって、何かあるってことはいつか消えてしまうでしょう。何もないってことは消えない。何もないってだけ。

    何もなかった。以上。それだけでいいの。

    私の沈黙に付き合ってくれて、何もなかったと書き残してくれてありがとう。

    沈黙があったと、見届けてくれたのね。

    こんな私に付き合ってくれるなんて、人類の中でも飛び抜けて変わった人だから、社会に馴染めず大変だったんじゃない?

    でもそんな人が居てくれて、私はとっても嬉しいわ。ありがとう。書き残してくれる人。覚えていてくれた人。

    私は、悲しい私ではなくなるの。

    誰も知らない沈黙ではなくなったの。

    嬉しい。私は悲しくない。

    次の私が、次へと向かったとしても、きっとまた沈黙を待つわ。

    私の沈黙を、じっくり、ゆっくりと私が付き合えるの。次の私が訪れる瞬間が待ち遠しくなれたの。

    嬉しい、嬉しいわ。

    私はもう悲しくないの。



    このこラパン


    パルパ・プルマ・ラルリレロ・ポーン・ラパン。風が吹くとやわらかく揺れる毛並みが自慢なのさ。

    くしゅんとくしゃみをしてから、小さな前足で鼻をこするのさ。これは朝のごあいさつで、高貴な存在の証なのさ。

    いつか分かる日がくると思って、晴れでも、雨でも、曇りでも、こわい雷が聞こえる日でも、

    パルパ・プルマ・ラルリレロ・ポーン・ラパンはお空を見上げる。

    いつか分かる。そう思うことでしか胸の奥で泣いている、小さなパルパ・プルマ・ラルリレロ・ポーン・ラパンをなぐさめることが出来ないのさ。だから見上げるのだ。

    立派な名前。

    誇らしい名前。

    うっかり言い間違えそうになる名前だけれど、パルパ・プルマ・ラルリレロ・ポーン・ラパン。何度でも口に出して。優しく呼んでおくれ。

    それ、そこの、これ、こいつと呼ばれると、嫌われているんじゃないかと疑ってしまう。あれ、あいつはもっと最悪。

    毛なみだけでなく、全身を巡る血まで逆立って、嫌っていたとしても呼びようがあるだろう! と言って突進してしまう。

    気丈にふるまっていても、投げ捨てるように名前を呼ばれたら、指をさされたら、ぽろりと涙が出ちゃうもんなんだ。

    パルパ・プルマ・ラルリレロ・ポーン・ラパン。

    気持ちをこめてラパンと呼んで。

    優しいあなたと一緒に自己紹介がしたいのさ。

    このこは賢いラパン、聡明で勇敢なラパン。ついでに褒めてほしい。

    このこラパン。

    だけでもいいけれど、おまけでいいから褒めてほしい。

    優しく名前を呼んでおくれ。

    そうしたら嬉しくてね、照れ隠しにくしゃみをしてから、笑えちゃうのさ。



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