こちらのアイテムは2026/11/8(日)開催・文学フリマ東京43にて入手できます。
くわしくは文学フリマ東京43公式Webサイトをご覧ください。

沈みゆく神々(神話シリーズ6)

  • 南3-4ホール | う-06 (小説|ファンタジー・幻想文学)
  • しずみゆくかみがみ
  • 遠野みづき
  • 書籍|B6
  • 64ページ
  • 300円
  • https://www.pixiv.net/novel/s…
  • 2015/8/14(金)発行
  •  残りわずか、再版予定はありません。
    【創世神話六作目、完結です】
     時の神は大地の神からその身のかけらを託され、大風の神に届けることとなりました。離れ離れになっていた二つの神はかけらを通じてやっと話し合うことができるのです。さまざまな出来事が起こり複雑になった世界を、美しく正しく調えることはできるのでしょうか。闇の神は苦しみと悲しみに満ちた世界に悲観的になっていました。そして、奥底の神は眠りから目覚めようとしていました……。
    ※表紙のデザイン、紙の種類が見本と違う場合があります。


    「沈みゆく神々」

     奥底の神はまどろみの神の力を直に浴びて、何も感じない深い深い眠りに落ちていました。自身というものすら消え失せて、意識も感情も記憶も全てが細かい塵となって無限の空間を満たしているのでした。そうしているうちに、その塵が少しずつ引き寄せられるように一点に集まってきました。
     やがて小さな泡が集まって水の中から浮かび上がるように、奥底の神はふっと我に返りました。そして真っ暗な闇の中にいるのを感じ取りました。何も触れず聞こえぬ中、自分が何者かもわからずに、ひたすら絶望に叫びを上げていました。けれどもそれは夢の中でした。
     奥底の神の外側では、その眠りの変化に気づく者はいませんでした。薄布がつぼみのように合わさる天蓋のついた美しい寝台に横たわる神の部屋では、常に誰かがついて番をしていました。けれども皆、奥底の神の力を恐れて近づこうとはしませんでした。底無の民の長、礫ならばそれを見抜けたかもしれませんが、彼は自身の仕事と研究に時間を費やしていたのでした。
     夢の中で、奥底の神は外の時間の何千倍にも思える永い時を過ごしました。そのうちにかの神は自身の塵から小さな世界を創りはじめました。他に何もすることはなく、できることもなかったのでした。世界をどう創ろうか思い描いているわけではなく、ただ成り行きに任せ、行き詰まると壊し、また創り直しました。それを繰り返すうちにようやく、奥底の神は自分が何者であるかを思い出しました。それまでぼんやりとした霞のようだった姿ははっきりと形づくられました。
     ふと見上げると、頭上には力強く耀く眺める神と、穏やかに耀く集める神が居りました。それは、奥底の神が送り出されたときのいちばん古い記憶でした。それを見つめているうちにこれまでのことを少しずつ、そのときの感情は別として、出来事のみを思い出してきました。それと同時に、奥底の神を取り巻く闇は動き出しました。すべて思い出すと、眠りにつく前の世界と同じ景色が現れました。
    「ああ」
     奥底の神はため息をつきました。
    「思い出したからには、続けなくてはならぬ」
     自ら発したその言葉に、奥底の神は自分の本来の名と役割を思い出しました。
     座っていた奥底の神は立ち上がり、集める神を見据えました。
    「わしは、『続ける神』。世界の輝きを繋ぎ止め、存続させるもの」
     奥底の神はその力をつかみ取ろうとするかのように、集める神に手を伸ばしました。その指先からまっすぐに光が放たれ、集める神に当たって弾けました。光は粉雪のように降り注ぎ、奥底の神に吸いこまれていきました。
     それでも、眺める神も集める神も何ひとつ変わらず耀いていました。それは夢の中なのか、神ゆえの力で本当に通じているのか、誰にもわからないことでした。

       *   *   *

     大地の神と大風の神が思い合い引かれ合う空間――留まれる園の端にて、大地の神と出逢った時の神と闇の神たちの一行は二手に分かれることとなりました。大地の神からそのかけらを託された時の神と鳥の王、大風の神の下部スウネとお供の鳥たちが神々の居所へ向かいます。大風の神にかけらを託し、その後どうするかの伝言を携えて戻ってくる予定でした。
     大地の神は生きものたちが棲みやすい留まれる園を狭めたくはなく、かといってこれ以上大風の神から離れるのも辛く悲しく、動けずにいたのでした。闇の神と守り手たちはそんな大地の神を守るために側に控えることにしました。
     旅立つ日の朝、時の神は闇の神に言いました。
    「そんなに悲観的になるな、闇居よ。大地さまのかけらを大風さまに届けたならば、また状況も変わるだろう」
    「悪いほうに変わるかも知れぬ」
     奥底の神を倒すことを大地の神に止められた闇の神は、すっかり気落ちしていました。うつむく闇の神の両肩を時の神はつかんで言いました。
    「そんなことを考えてはならぬ。きっとうまく行くと信じて進むのだ。乙女におまえの心労を注いでしまう気か」
     傍らで癒しの乙女は心配そうに闇の神を見つめていました。いつでも心軽く、花の間を飛ぶ蝶のようだった乙女でしたが、闇の神が沈んでいると不安を感じるようでした。闇の神は時の神の腕をそっと外して、唇だけで微笑みました。
    「そうだな。まだ最悪ではないのだ」
    「そうだぞ」
     時の神は笑ってみせました。その明るい瞳の光は眼鏡ごしでも闇の神の心を照らし、他の者の心にも明かりが灯りました。
    「さあ、行くとするか」
     時の神は仕度を終えたスウネたちに声をかけました。鳥の王と鳥たちは翼を広げて応えました。
    「行きましょう」
     スウネは肩を震わせました。すると、その背に雲のように真っ白な鳥の翼が生えるように現れました。それが風部の者の特徴でした。スウネは二、三度羽ばたいてぴんと伸ばしました。
     守り手たちは時の神たちに旅の無事を祈りました。最後に、大地の神が時の神に言葉をかけました。
    「あなたはとても大風の神に似ているわ。あちらこちらに気を取られることがなければ、無事に使命を果たすことができるでしょう」
     時の神は大地の神のやさしい顔にうなずきました。次いで、闇の神と目を合わせると微笑みました。そして一歩を踏み出しました。
     その足先が地面を蹴ると、小さなつむじ風が起こってその体がはるか前方に運ばれていくのを時の神は感じました。振り向くと、あとからスウネや鳥の王たちがせわしく羽ばたきながら追いかけてくるのが見えました。その向こうに芥子粒のように小さくなった闇の神たちが手を振っているのが見えました。時の神は手を振り返し、楽しくなって何歩も足を繰り出しました。すると周りの景色が早瀬のように背後に流れていくのでした。
     時の神は後ろ向きになってスウネたちを招くように腕を伸ばしました。すると風が湧き起こり、自由に操ることができました。その風に乗れば地に足をつかずに、鳥のように飛べるのでした。時の神は嬉しくなって高く高く飛び上がり、何度も宙返りをして雲を突き抜けました。
     青い空に太陽がさんさんと耀くのを見て、そちらへ行きたくなりましたが、懐に納めた大地の神のかけらが重く地平へと引っ張りました。そして、頭の中に大地の神のはなむけの言葉が響きました。時の神は我に返り、後ろ髪を引かれる思いで雲の下へ降りました。
     スウネたちは時の神を見失っていましたが、目指す方向はわかっていたのでそのまま進み続けていました。時の神ははるか後方にいる彼らを見つけると、綱のように風をのばして引っ張りました。彼らはそれに乗って時の神に追いついてきました。彼らは渡り鳥のように列を作って空を切りさくように進んで行きました。
     飛びながらスウネが楽しそうに時の神に声をかけました。
    「こんなに早く飛んだことはありませぬ。すばらしいお力ですな」
    「ああ。自分でも驚きだ。この調子だと、大風さまのもとまでどれほどかかるだろう」
     スウネは前方を見て言いました。
    「一昼夜と少し、でしょうか。しかし、直接居所に向かえば底無の民らに怪しまれるでしょう。いったんまどろみの館へ向かい、そこから姿を隠して居所へ行きましょう」
    「居所のことは俺はわからないからな。おまえに任せよう」
     スウネは嬉しくなったのか饒舌になり、居所のあたりがどんなに美しいかを時の神に語って聞かせました。時の神は空を見るとどこまでも昇りたくなってしまうので、努めて下界を眺め、スウネの話に耳を傾けていました。その様子を、鳥の王は心配そうに見つめているのでした。
     スウネの話のとおり、居所に近づくにつれ緑と潤いは豊かになり、どこも美しい場所ばかりでした。たくさんの生きものと世話をする下部たちが見えました。山羊を連れた下部が草原でのんびりと草を食べさせていました。その向こうの岩山では狼の群れを率いた下部が息を潜めていました。岩山の影から流れ出る清流には、魚たちと下部が戯れていました。森の中、山の中にもそれぞれの生きものに下部がついて守護しているのでした。
     そこからまた離れたところでは、人の村がありました。人々は生活の道具やら楽器やらのさまざまな物を考え出しては作り、また歌を歌ったり舞い踊ったり絵を描いたりしていました。留まれる園の外で暮らしていた時の神には、彼らはひ弱で作る物も拙く見えましたが、歌や絵などの芸術は優れているように思いました。下部たちは彼らを幼子を育てるようにほほえましく見守り導き、かつ楽しんでいました。

    【サンプルはここまでです。ピクシブにはもう少し長く載せています】

ログインしませんか?

「気になる!」ボタンをクリックすると気になる出店者を記録できます。
「気になる!」ボタンを使えるようにするにはログインしてください。