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まどろみの神(神話シリーズ4)

  • 南3-4ホール | う-06 (小説|ファンタジー・幻想文学)
  • まどろみのかみ
  • 遠野みづき
  • 書籍|B6
  • 40ページ
  • 200円
  • https://www.pixiv.net/novel/s…
  • 2014/8/15(金)発行
  •  残りわずかです。お早めにどうぞ。
    【作者の想像世界の創世神話四作目です】

    離ればなれになっていた時の神と闇の神は再会し、奥底の神を倒す戦いの準備を始めようとしていました。しかし、天に昇りその向こう側を見てしまった時の神は心に決めたことがありました。一方、生きものたちの「生きる力」が地上から失われつつありました。大地の神と大風の神の再会を阻もうと、奥底の神はかつて地の底に置いてきた力のかけらを得ようとしますが……。
    ※表紙のデザイン、紙の種類が見本と違う場合があります。
    ※第四話なので、ネタバレ内容になります。ご了承の上お読みください。前回のあらすじなどは省略しています。


    「まどろみの神」

     時の神と鳥の王は流れ着いた離れ小島で何度も朝日と夕日を見送り、太陽と月のめぐりが規則正しくなったのに気づきました。鳥の王は大事を成し遂げたと喜びましたが、時の神は納得がいかない様子でした。太陽と月が自分ごときに応えてくれたとはとても思えませんでした。
    「時見さま、いつも陽気であったあなたさまは地に降りてからどこか沈んでおられるよう。どうかなさいましたか」
     白い羽が消し炭のように黒く変わってしまった鳥の王は、不安そうにたずねました。時の神がそちらを向くと、鳥の王は優美な長い首を丸めて目を伏せました。あれ以来、時の神の瞳は太陽の力を写し取ったかのようにまぶしく感じられるのでした。
     時の神も目を伏せました。輝きが弱くなり、鳥の王は時の神の日に焼けた頬を見ることができました。
    「いや、我は何も変わらないさ。ただ、あんなにも大きな力を見て圧倒されてしまったのだよ」
     確かに時の神は途方もない力を垣間見て、すっかり心を奪われてしまいました。太陽の向こう側はこちらの想像も及ばない広大無辺な世界で、こちらの千年があちらの一瞬の数千分の一にも満たないであろうことが知れました。
     それは時の神のおおらかで天真爛漫な性質を気づかぬうちに少し変えてしまいました。足元の世界、愛すべきものたちが暮らす世界を守りたいと思う一方で、何もかもが虚しく思えてならないのでした。あの天空にこそ、自分の求めるすべてがあるような気がするのでした。
     それは小さく固い結晶のように時の神の胸のうちに現れ、少しずつ大きくなっていきました。彼はいつしかもう一度天空に上ろうと心に決めました。けれどもその思いが自分の翼となって支えてくれた鳥の王や、慈しみ育ててくれた神の下部――守り手たちを失望させるだろうことはわかっていました。それでも闇の神にだけは会って直接伝えなければならない、そう思っていました。
     時の神は木や草の他は何もない孤島で鳥の王の傷が癒えるのを待ちながら、簡素な丸木舟を作って過ごしました。しばらくして鳥の王はようやく羽ばたけるようになりましたが、元の力を取り戻して時の神を乗せて飛ぶにはもっと時間と力が必要でした。時の神は鳥の王を舟に乗せて海に漕ぎ出し、わずかに感じる闇の神の気配をたよりにそちらへと進んでいきました。
     時の神の目の輝きは夜こそ目立ち、明かりに集まる魚たちは不思議そうに彼を見るのでした。遠くで波間に見え隠れする二つの小さな光を見た人間もいるかもしれません。ともあれ、時の神は誰にも出会わずに海を渡っていったのでした。
     時の神と鳥の王は人間たちが開いた港にたどり着きました。たくさんの人が働いている様子を、時の神と鳥の王は人からは見つけられないほど離れた波間から眺めていました。
    「あの港に上がるのですか、時見さま」
    「うむ。取り敢えずは陸に上がって体を休めたいものだ。そして、闇居を探さなくては。しかし、あの大きな船はどうだ。人はいろいろなものをその手でこしらえるのだな」
     大きな帆を張った船に興味津々の時の神に、鳥の王は言いました。
    「しかし、時見さまのその目は人間に怪しまれましょう。あそこはかつて訪れた素朴な者たちの村とは違うようです。奥底の神の手の者がまぎれているかもしれません」
    「そうか。それは考えてもみなかったな。ではこの目を隠すとしよう」
     時の神は丸木舟の端から板を削りだし、見るための細い切れ目を開けて顔に括りつけました。
    「これでどうだ」
     得意げな時の神に、鳥の王は遠慮がちに言いました。
    「……それは、返って目立つのではないでしょうか。やはり人気のないところへ向かったほうが良いかと私は思います」
    「だが、我はあの大きな船を近くで見たい。そして、自分でも作ってみたいのだよ」
     言い出したら聞かない時の神に、鳥の王は黙って従うより他はありませんでした。港に上がると鳥の王の予想通り、彼は注目の的となりました。
     妙な面をつけ、大きな黒い鶴か孔雀のような鳥を連れた青年の噂は瞬く間に広まりました。すぐに港を仕切っている頭領がやってきました。時の神は時見と名乗り、孤島からここに流れついたと正直に話せることだけを話し、身分のことは言いませんでした。
     妙な出で立ちにもかかわらず、生来の魅力と人懐こさに頭領はもちろん、港の人間はみな時の神が気に入ってしまいました。仮面のことは、長い旅のうちにいつの間にか目を病んでしまったようで、あまり見られたくないから着けているのだと説明しました。ある意味嘘ではありませんでした。人々は同情して薬をくれたり、もっと出来の良い仮面を作ってくれる者もおりました。
     時の神も、ここの人間と彼らが作った大きな船やいろいろな便利な道具がとてもめずらしく、興味を引いて飽きませんでした。時の神は船造りを手伝い、船を操る技を学びながらそのまま港で暮らすことになりました。
     鳥の王は港に集まるカモメやウミガラスたちに真実を告げました。大風の神に創られた鳥たちは奥底の神の力を受け取らず、影響もされなかったので信頼できたのでした。鳥の王は闇の神を探しあて、港に居ると言付けるよう命じました。たくさんの鳥たちを介して伝言は伝わってゆきましたが、それでも闇の神の元まで届くのは時間がかかりました。

       *   *   *

     時の神が船についての一通りの技を身につけ、人々を助けられるほどの腕前になったころ、闇の神の一行が港へやってきました。彼らは用心して普通の人間のように姿を変え、さりげなく時の神を探しました。闇の神は酒場で人々に囲まれている陽気な人物を見つけました。妙な仮面で目の辺りを覆っているその人物こそ、懐かしい片割れでした。
     闇の神は彼がどこか変わったと気づきました。少年のように華奢だったその体つきは毎日の船造りで筋肉がつき、赤く日焼けをしていました。それだけでなく、陽気で誰からも好かれる時の神は、人々に囲まれ楽しんでいるように見えて、どこか心ここにあらずという感じがしました。
     時の神は近づく闇の神を見て、はじめ彼だとわかりませんでした。それほどに闇の神のかんばせは苦悩が刻まれ、その瞳には悲しみがたたえられ、取り巻く空気は暗い霧のようでした。毎日のように刀剣を振り野山を駆けながらも充分な滋養を取れずに――取らずにいたその体は細いながらも強靭であることが見て取れました。人にはその異様な気配がわからぬように取り繕っていましたが、時の神には感じずにはいられませんでした。
     互いは近づく歩みを速め、二つの神はきつく抱き合いました。
    「ああ、我が兄弟よ」
     時の神は闇の神の顔をしっかり見据えました。仮面の小さな穴を通してまぶしい光がこぼれ、闇の神は目を逸らしてしまいました。
    「ああ、離れている間におまえに何があったのか。その目の光はなんとしたことか」
    「すまない。我は陽を、その力を、その向こう側を見つめてしまったのだ。おそらくはそのせいでこのようになってしまったのだ」
     時の神は小声で言いました。
    「だからそんなものをつけているのか」
     闇の神は微笑みました。その険しい顔が緩んだのを見て、時の神はほっとしました。時の神は船大工の仲間たちに兄弟を紹介しました。皆は驚き、喜び、闇の神を歓迎して時の神がこの港でどんなに好かれているか口々に言いました。人々は闇の神に酒や肴をすすめましたが、彼は手をつけられませんでした。奥底の神の手の者と戦うようになってから、闇の神は楽しむ食事ができなくなってしまっていたのでした。困っている様子を見て、港の頭領は兄弟水入らずにしてやろうと仲間たちに声をかけ、時の神に帰るよう促しました。
     時の神は礼とおやすみをいうと自分の小さな借家へ闇の神を連れて帰りました。守り手たちは散り散りになった仲間を捜しに行きました。
     家の中で二つの神はこれまでのことを話しました。闇の神はとりわけ時の神が天へ上ったときの話を聞きたがりました。時の神は空から見た地上の様子や遠くに見える星々の美しさを語りました。一通り聞き終えた闇の神は深くうなずいて言いました。
    「得がたい経験をしたのだな。しかし、その目の代償だけのことはあったな。おまえのおかげで陽と月のめぐりは一定になり、生きものたちはずいぶんと暮らしやすくなった」
    「いや、それは……」
     時の神は言いよどみました。

    【サンプルはここまでです。ピクシブにはもう少し長く載せています】

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