「星神楽」は星に祈りを捧げる神楽が全国探しても銀鏡神楽だけというモチーフはいい。祈りや命の尊さについて考えさせられるコロナウイルス禍の今だから伝わってくるものがある。 少年期から青年期へと成長していく17歳の辰一の一人剣の舞の描写も迫力がある。(中略)5章の神楽舞のシーンは圧巻である。辰一が過去を振り切って生きていこうとするラストもいい。選評:野見山潔子 2020年九州芸術祭文学賞
星に哀しみがあるのなら、こんな残酷な世界で生きている、僕は死んでもいいだろう。星はただ、光っているだけで、何も僕に示唆してくれない。降るような星は掴める、と見紛うほどだった。星々は遥か、闇の中に漂う、灯火を拾い、南十字星を導くように照らしている。
冥界の女神に支配された、天心には孤帆を宿す、星の河が流れ、尾根は暗黒の額縁を囲っていた。山裾から覗きこむ、闇が凄むほど深い。
「――祓い給え、僕を軽蔑する、心の穢土を」
桜月夜の下、僕は一人剣の舞を始めた。僕の生まれ故郷には、あの戦争の引き金になった、星の神話が静かに語り継がれている。星に祈りを捧げる、神楽が舞われるのは、この豊葦原瑞穂の国でも、醜悪な姫が恨み嘆く、奥日向の米良の地だけだ。黒いはずの血が星に全反射する。桜の花びらが僕の嘆息を運んでくる。コリコリ、と白い音が鳴る。骨の音だ。死者が朗誦する、慟哭の星の詩が白く光る。
僕の心にある、クリスタルヘッドが空へと光る。右手で小刀をくるくる、と独楽のように軽やかに回転させながら。慢心を封印し、掴めはしない、星に向かって、祈りを捧げながら羽ばたきを繰り返し、精鋭な刃に夜を沈めて、心に巣食う、悪鬼を退治していく。
僕自身の過去と折り合いをつけるように。小刀を回しながら、四方に向かって、東西南北の妖獣に敬礼をする。この次が正念場、白装束を身に纏った肩から外した、赤襷を龍が吐かす、火焔のように折り曲げながらの、清潔な汗。
僕らが祈りに捧げる、荒神は何を召さられるのか、否か。鹿児矢を射るように絶望さえも射貫けたら、と僕は邪念を昇華させながら舞う。発光した桜がはらはら、と血だまりに集まり、戦の予兆はいつまで経っても終わらない。終われない。僕の心にいつまでも滞り続ける、憎悪のように。軸が少しぶれ、片足が吊りそうになりながらも小刀を持ったまま、天蓋の下で一回転をした。宙を舞ったとき、地平線が僕を覗き込んだ。鬼神に相対するまで、僕は舞うのもやめない。やめてはならない。両足に巻かれた、黒脚絆が鎬を削るように僕を鼓舞する。
まだ星へ、天へ、神へ、舞え、祈れ、と思召すのか。流離う運命を疑いもせず、輝き続ける星屑。魑魅魍魎が跋扈する、闇夜で舞を捧げながら、星になれたらどれだけ、楽に肩の荷が下りるのだろう、と強く願った。深く咽喉が枯れ果てるまで、舞い続ければ、僕らは哀しまずに済むのに。なぜ、残酷な運命ばかりが僕らを憐れむのだろう。僕は星を抱いた。僕は星を孕んだ。星を嗤った。哀しみを消した星空の下で一人剣を舞いながら。
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