純文学の短編集です。生という空洞は周辺の死を書かねばその像を掴めない。
2022年からちまちま書いた「朝を待つ」「のどごし」「不正」の三編を収録しています。固有名詞が少ないです。
以下サンプルです。
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p7/朝を待つ
会社から帰るとリビングで妻がゾンビになっていた。廊下を既に満たしていた腐臭は見知ったシーリングライトの下でいよいよ濃くなっていて、赤黒い液体と小さなかけらがカーペットに散らかっていた。俺が「へぇ」と間の抜けた声を出すと、妻、は小さく蠢いた。
大きめのカーペットだ。俺は思った。このくらいのサイズだと、どうかな。洗濯機で洗えたっけ。
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p21/のどごし
夕方にあった何が。何があるか知らないが誰も死神が来たらしい。死神は夕方に来た。夕方に来て挨拶をして挨拶だけで帰った。私はそれを見た。
しかし本当は見ていたような気がする。本当は死神を見たのは私の弟だった。弟は夕方に死神が来て挨拶だけで帰った。弟が言うのであればそれが正しく、それ以外の可能性は間違っている。弟は存在している。私は弟が存在している可能性を残した。
そのあとは夕飯を作った。六人分作った。ここには私と弟しかいないが、作り置きをすることを私は経験から学んでいたため、今日もそうした。作り置きをタッパーに入れて冷蔵庫に入れた。冷蔵庫に入れられたタッパーに入れられた野菜炒めに入れられたにんじんを減刑した。弟のもとには死神が来た。あるいは私のもとに。私の冷蔵庫のもとにも。
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p37/不正
男はふと、己が透明人間になれることに気がついた。
なぜそれが可能になったのか、男はきっかけを知らない。男はごく平凡に生まれた人間の一人であった。男はかつて学校に行き、今は労働をしていた。また、数多の人々がそうであるように、男はしばしば将来を憂いた。あるいは人に嫉妬し、己の意地汚さに後で呆れたりもした。教科書に載るような偉大な発見、大多数に支持されるような豊かな才能を対岸と眺め、その光景を仲間と気晴らしにもした。
だから自身が自在に透明と不透明とを行き来できると気付いたとき、男は驚いた。どうしてそんな能力が身についたのか、しかし男は原因を探ろうとはしなかった。男は透明人間になって初めて、自身が心から透明になりたかったことを突然理解していたからだ。(中略)
男はそうして現状を受け入れた。次に、男は不正乗車をすることにした。
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「朝を待つ」はわりと読みやすくて、「のどごし」は変です。「不正」は最新作です。
↓ブルスカに実際の紙面のサンプル画像があります。
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