こちらのアイテムは2026/5/4(月)開催・文学フリマ東京42にて入手できます。
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アンソロジー 存在しない祝日

  • 南1-2ホール | Q-07 (小説|純文学)
  • あんそろじー そんざいしないしゅくじつ
  • 左沢森 犬山 昇 板垣真任 衿さやか 大木芙沙子 オカワダアキナ 尾八原ジュージ 坂崎かおる 鮭とば子 瀬戸千歳 たけもとあかる 谷脇クリタ 鳥山まこと 橋本ライドン 本所あさひ 吉田棒一 ヨノハル
  • 書籍|B6
  • 256ページ
  • 1,800円
  • 2026/5/4(月)発行
  • 「存在しない祝日」をめぐる17の日々。

    カバー有/オビ付き
    カラー口絵8ページ+本文248ページ
    作中に登場するカレンダーが付録でつきます

    短歌:左沢森「どの口」

    片付けをいちばんにまず考える六月のゆいいつの祝日に
    誕生日がふたつあるひとが見つけた回文をこの世に引き受ける


    小説:犬山 昇「手紙供養日」

    毎月の第三土曜日、海辺の父の部屋を訪れるとき、夕食はいつも魚料理だった。最寄り駅は漁港のそばで、父は白身魚をバターで焼いてくれる。魚介類がいかに身体にいいかも聞き飽きていたが、私がこの家を訪れるのは、別居中の両親がそう約束してしまったからだ。

    小説:板垣真任「なんにもわからない」

    ぼくのなかにひとつ、憧れているビジョンがあって、それは、大学の入学金を銀行へ払いに行く自分の姿。年の離れた兄さんも、姉さんもそうしたと言っていたから、ぼくもそうするだろう、そうしろと言われるだろう、父親の革の鞄に百二十万の現金を入れて、歩いて十五分の町の銀行へ払いに行く。

    小説:衿さやか「母性有料記念日」

    池田さんと話していると不安になる。池田さんはひどい斜視で、どれだけ向き合って話していても、ほんとうの会話、ができていないような気がするから。池田さんは百五十センチくらいの身長で、いつも私を見上げる。池田さんは真夏でも真っ黒な厚底のブーツをはいている。

    小説:大木芙沙子「桜の咲かない王国の春」

    朝起きると、まずは仏壇の前で手をあわせる。それがわが家の習慣で、手をあわせながらが心の中で思うのは、たいてい「おはようございます」という定型文のみで、そのとき母や父がどんなことばを胸の内で唱えていたのかは知る由もなかったけれど、おそらく同じような感じだろうと思っていた。


    小説:オカワダアキナ「予備役休暇」

    十八歳から二十二歳の間のどこかで兵役に就き、男は二年間、女は一年半。その後も一年に一度、予備役兵として三週間の軍事訓練に招集される。仕事や家庭から離れて軍に戻り、予備役は四十五歳まで続く。

    小説:尾八原ジュージ「渡り雛の日

    渡り雛の日と梅雨明けがぴったりと被った。はたして六月三十日午前八時、おひいさまは七年ぶりにいらっしゃった。そのときわたしは、夏の太陽が明るく照らす庭で、洗濯物を干していた。

    小説:坂崎かおる「アンバー・デイ」

    部屋に入るとなにか香りがした。入ったときは、こういう会なのだからと、わざわざ誰かが用意したのかと考えたが、それは名残のような微かな形であった。わたしは少し息を止め、それから口をすぼめて、ゆっくりと吐き出す。

    小説:鮭とば子「ミー・ミーツ・ミー」

    おれは泣いていた。だくだくと止まらない涙を、拭いもせず歩いていた。冬の昼下がり、街中で通りすがる連中はおれを見ないふりをする。ふりをしているだけだから、すげえ、と誰かが小声でささやく。やめなよ、と隣の誰かがいさめる。構わなかった。


    小説:瀬戸千歳「あなたがたずさえる火」

    地獄は火のなかより生まれる。島の言い伝えをあなたはちっとも信じていないから、今年の水払いの払い手に選ばれて困惑している。

    イラスト:たけもとあかる「春行列の日」

    春の訪れを祝い、春を連れてきた精霊をもてなす日。

    小説:谷脇クリタ「ひーちゃんとワクワクおやすみ大作戦」

    ひーちゃんが布団の中でもぞもぞ動くので目が覚めた。カーテン越しに入ってくる光は真昼の明るさ。なんとなく十一時半かなと思い、右腕を枕のまわりでぶんぶんやるけどスマホはもとから手に握ったままで十一時二十八分だった。

    小説:鳥山まこと「砂漠」

    夫の葬式を終えた頃も、しみじみと振り返るなんてことはしなかった。もう十五年も経つけども、時々一人になった身軽さがぶり返すくらいで、撮った写真やアルバムを振り返ることもなく、今となっては夫の所有物なんてほとんど自宅には残っていない。

    漫画:橋本ライドン「無上の佳日」

    矢島祥子は虚言癖だった

    小説:本所あさひ「純と純」

    婚姻届けを提出し終えた僕らに手渡されたのは、一枚の表札だった。まだなにも書き込まれていない、天然木をそのまま長方形に切り出したかのような、木目のくっきり浮かんで見える、薄い板。

    小説:吉田棒一「労働を知らない子供たちさ」

    左右に揺れるトムの尻を眺めながら、石田は「今日は何月何日だっけ」と考えた。最近は曜日どころか季節の感覚もよくわからない。エアコンの効いた部屋で快適に暮らしていると、今が暑いのか寒いのかわからなくなって、ある快適な気候のふとした日に「あれ、これから夏になるんだっけ、冬になるんだっけ」などと思ってしまう。

    写真・短歌:ヨノハル「天使の日に」

    凍雪の生まれかわりを信じたら天使がここに花を降らせる
    走り方知らないくせにぼんやりと踏めばぼんやり加速する春


    写真:ヨノハル
    イラスト:たけもとあかる
    装幀・編者:瀬戸千歳

    書影はオビ付きの場合です。

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