「ふたりともは無理だわ」と、透と優の母である亮子がそう言ったのは、十二月も半ばの変に冷え込んだ晩だった。申し訳なさそうに顔を歪めている母の思惑に薄々勘付きながらも、優は沈黙を貫いていた。成績のいい双子の兄の透よりも、自分の方に進学を諦めて欲しいのだと、亮子が常々考えているのは承知の上で、優はそれを自分から切り出すのは癪だった。腹立たしかった。だから黙っていた。そもそも、最初からわかりきっていたことではないか。母子家庭で、アパート暮らしで、養育費だって貰えていないと毎月こどもにぐちぐちと文句を言っている有様なのに、大学進学なんてどだい無理な話だ。それなのに、どうして今更言い出してくるのか。それすらも腹立たしかった。透の作ったハンバーグを口に含む。少し冷め始めたそれは、噛み締めるたびに肉汁が溢れる。「ごめんね」 急かされている。亮子がわざわざ夕食の時間を選んで話を切り出したのは、その時間内は優が態度は悪かろうが、逃げずに話を聞くからに他ならなかった。一気に味を失ったぬるい味噌汁をすすりながら、優はまだ言葉を腹に納めたままにしていた。絶対に答えてやるものか。亮子は、まだ優を見つめている。彼女に、自分から「大学進学を諦めて働け」と、息子である優に直接言う度胸がないのは明白であった。それを理解したうえで、優が言い出すのを待っている無責任さを黙殺しながら、優がこの状況の打開策を脳内で巡らせているそのときであった。 「じゃあ僕が働こうかな」 それは、優にとって予想だにしていなかったひと声だった。 (続く)