お父さまは私になんでも創れる腕をくださった。私が創造を司る魔女であったからだ。私と同じ時に作られた魔女は他に三人いて、それらにもお父さまは役目をくださった。私たちは姉妹とされた。姉妹で、よく助け合いなさい、とお父さまは命じ、それから土地のすべてを四つに分けて、北の荒れた大地を私に分け与え、良い土地にしなさい、とおっしゃった。
土地にはすでにあまたの生き物が住んでいた。特に人間、というのがお父さまのお気に入りの生き物で、彼女らが最も繁栄していた。
原初、魔女は火であった。水であった。風であった。人を作ったのちに、お父さまはそれを一番よい形とし、魔女に人間と同じ姿を与えた。そのことからもお父さまの寵愛がどこにあるか分かりきっていることだった。
過去には魔女がその地位にいたという。けれどその頃を知る魔女はすべてお父さまに作り替えられてしまい、今となっては誰も真実を知らない。
私は与えられた土地に新しく国を作り、法を作り、家を作り、人間たちの営みを育んだ。人間はよく笑った。泣き、怒り、何かを祝い、産まれた物すべてに意味を見出した。その純朴さはお父さまが愛するところだった。
私もお父さまに習い、人を愛した。子が生まれれば祝福を授けに歩き、死ねば葬列の先頭を歩いた。人は私によくなついた。私に名前をつける者もいた。大きな竜を狩る時に私を伴う者もいたし、旅の一座に加わることもあった。
そうこうしているうちに、私はある日、急にこの平和な国がつまらないものに思えてきた。人の喜びは私には一切関係なく、創れないものは何一つない。つまり、私は不自由ということであった。
その時、炎の影が延び、壁に黒くにじみ、豊かな髪をたたえた南のお姉さまが現れた。南のお姉さまは、楽しいことをしましょう、と私に囁いた。どんな?と私が聞き返すと、お姉さまは吐息で笑った。
魔女を魔女でなくする遊び。
魔女は魔女にしかなれない。それはお父さまが考えたこの世でもっとも守られるべき約束だった。私は胸の高鳴りを感じた。
私は西のお姉さまの部品をすべて入れ替えて、南のお姉さまの胎に豚の子供を埋めた。
お父さまはひどくお怒りになった。東のお姉さまは地面に黒い髪を垂らしてお父さまに許しを請い、私の両腕をすくい上げ、ぱきりとへし折った。私の体の内側は鉱石のように光っていた。ちいさな欠片が空中の埃と一緒にきらめいた。それからお姉さまは私の耳に息を吹き込んだ。彼女のやわらかなくちびるが私の耳に触れた。
私の頭の中にあるすべての頁から文字がふっと浮き上がった。それらはお姉さまの吐息に乗り、私の頭の中をかけめぐり、元の場所に戻ることはなく、散り散りになってどこかへぽとぽとと落ちた。
私の頭からは言葉がなくなり、私は考える力を失った。暗闇だ。暗闇だけがそこにある。
それからどのくらい時が経ったか、私には分からない。気付いた時には私たちのいた広間は屋根がはがれ、床には砂や埃や葉が積もり、私の体の表面は風雨にさらされ荒れていた。頭の中では文字たちが番を求めてさまよい歩き、いくつかの言葉になりだしていた。それらは時折間違い、私の知らぬ言葉となり、正解を編み出し、私に再び世界を与えた。
なめらかに思考するにはまだ不十分な文字の羅列の中に、私は言葉を見つけた。東のお姉さまの声が頭の中でよみがえった。それは歪み、さび付いて、調子の外れた音楽のようだった。
次はもっと上手におやりなさい。
そうお姉さまは、あの時、私の耳元で言ったのだった。
(第一話 全文)