ケイトウの葬式
- 南1-2ホール | D-89 (小説|エンタメ・大衆小説)
- けいとうのそうしき
- 秋本そら
- 書籍|文庫判(A6)
- 200ページ
- 900円
- 「――伊藤が、死んだ?」
ある日、大学三年生の萩本直樹は、同じコース・サークルに所属する伊藤惠子の死を知らされる。しかも彼女は、駅のホームに設置された転落防止用の柵を自ら乗り越えて線路に降り、電車に轢かれて死んだのだという。
その死亡事故は、世間では『人騒がせな自殺』とされていた。
しかし、萩本はどうしても伊藤の死が信じられない。
伊藤は、他者には見えない世界の傷やひずみを見る人だった。そして、不幸を広げ、死を呼ぶそれらに、彼女が絆創膏を貼って塞いでいる姿を、萩本はすぐそばで見続けてきていた。
「怖がってたらなにもできないから、私は生きるの。絶対に悔いを残さないように」
彼女が死を恐れ、だからこそ懸命に生きていることを、萩本はよく知っていた。
「伊藤が自殺なんて、するわけがないんだ」
現実を受け入れられない萩本は、いつしか『伊藤の声』を聞くようになってしまった。
伊藤が死を選んだ理由も分からないまま、日々はすぎていく。
周囲は伊藤の死がなかったかのように、日常生活を営んでいる。萩本も何事もなかったかのようにふるまおうとするが、『伊藤の声』を聞くたびに動揺してしまい、なかなかうまくいかない。サークル仲間、登校中に出会うコースの先生、バイト先の従業員たち。多くの人々に心配されるたび、迷惑をかけまいと平静を装い続けようとする萩本だったが、ついに限界を迎えてしまい――。
どうにもならない現実の中でもがき続け、萩本がたどり着いた先にあったものは。
そして、伊藤がこの世を去った理由は。
「伊藤、おれにもようやく、分かった」
