■紹介
「願いの叶う村を知っていますか」
作家の丹下は編集の七森に誘われ、願いの叶う村へ取材へ向かうこととなる。
そこは一面白で染められた村であった。
白い村クローズド作品
■冒頭
ぺき、ぱき。
知らない人の腕が折られてちぎられて食べられた。
真っ赤な血が噴き出たけど、すぐにごくごくと神様が飲んだ。
いつも頭から食べるけど、神様は足のあたりが好きなのかな。それとも好きなものは先に食べるのかな。
知らない人の上半分を神様が食べて、中身が見えた。
最初はこわかったし、人の中もびっくりしたけれどもう慣れちゃった。
でもちょっと不安なこともある。
神様の姿をぼくは見ることができない。だからどんな顔をしているのかもわからない。
神様はぼくの贈り物、喜んでくれてるかなぁ、喜んでくれてたらいいな。
いっぱいいっぱい神様は食べて、残ったのはこぼしちゃったちょっとの血だけ。
きっとお腹いっぱいになった神様はぼくに声を掛けてくれた。
「なにを欲する」
ぼくは――――。
二
「願いが叶う村をご存じですか?」
「特定の宗教を信仰する気はない。勧誘が目的というのであれば今日の打ち合わせはこれで終わりということで」
「いやちょっと待ってくださいよ先生! 俺は今、実は真面目な話をしています」
開口一番、編集が突拍子もないことを言い出したので席を立ったが、服を引っ掴まれて物理的に席に戻される。
新作についての打ち合わせをさせてほしいと言われて、私は自室から出たくないのにわざわざいつもの喫茶店にまでやってきたのだが……、どうやら新作というのは真っ赤な嘘だったらしい。売れない作家に対して甘美な言葉をぶら下げておいて、出てきたのが宗教勧誘ともなればまともに聞く気も失せるというものだ。しかしながら自室からろくに出ない私の筋力というものは世間一般よりも低く、担当編集の腕一本も振り切れないのであった。
「別に俺はなにかしらの宗教に入ったわけではないです。友人の誘いで願いが叶う村って場所に行けることになったんで、一緒に取材どうですかっていう話ですよ。よくあるでしょ、ミステリとかで因習村に行くやつ」
「お前はミステリをなんだと思っている」
頭が痛いことになんと私の担当編集であるこの七森という男は、担当作家を自らの手で危険な場所へと送り込もうとしていた。この男、権力が這いつくばるところがこの世で一番愉しいなどと宣ったり、先生に有名になっていただくことで編集部内での発言強度を上げたいなどを公言したりととんでも男である。
そのとんでもっぷりが今回、怪しい宗教団体の村への潜入捜査に気軽に誘うという行動でも発揮されていた。
なおこれは初めてのことではない。これまでに何度かあった。本当に担当編集を変えてほしい。心から。
今回は、願いを叶えると噂の宗教団体への潜入取材の敢行が無茶ぶりの内容のようで。出立は一週間後、滞在期間は未定。
急でふざけた話ではあるのだが準備期間を一週間も設けられている、と思ってしまうほどには慣らされてしまっていた。
「行きましょうよ、どうせ煮詰まっているんでしょう?」
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