街を歩いていて、年季を感じる店が目の前に現れると、足が止まる。その外観を眺め、看板やのれんを眺め、たいていの場合、一度は心を落ち着けるためにあえて通り過ぎて、少し歩いて引き返し、意を決して入ってみる。(中略)
たまにタイミングに恵まれると、お店の方の手がちょっと空いた隙に、お店の歴史について聞かせていただくようなこともあり、瓶ビールをグラスに注ぎながらうなずいている時間が、私にとってはこの上ない贅沢だ。
いや、たとえ、去年オープンしたばかりの店だろうと、先月できたばかりの店だろうと実は関係なく、そのお店に立っている方が、なんらかの経緯をたどって、今ここにお店を出して営業しているということがすでに想像の及ばないことで、お店の方のお話を聞かせていただけることがあると、「本当に人生色々だな」と、いつも感じるのはそんな当たり前のことなのだが、結局、私の興味はそれぞれの人が生きてきた時間、自分が絶対に知り得ないその不思議な時間に尽きるのだ。(「まえがき」より)