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母が溶けた。

  • 南3-4ホール | き-23〜24 (小説|短編・掌編・ショートショート)
  • ははがとけた。
  • オギノサイカ
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 156ページ
  • 1,500円
  • 2025/11/23(日)発行
  • 母が溶けた。
    今年の6月の事だった。実際に見たのは、警察署で渡された一枚の写真と、真っ黒に変色した爪だけだった。 死後の日数が経ちすぎて、正確な死因はわからないという。けれど私は、その曖昧さに少しだけ救われた気がした。 母はきっと、誰にも看取られずに、静かに溶けていったのだ。
    家に戻ると、空気の隅々まで母の気配が沈んでいた。 開けかけの引き出し、古いアルバム、庭の枯れた鉢植え。どれも生の途中で止まったようで、触れるたびに胸が軋む。 母のいない世界線に移ってしまったのだと、ようやく理解した。
    葬儀を終えても、私は何度も母の部屋に足を運んだ。 遺品を片付けながら、母が何を考え、どんな孤独を抱えていたのかを探っていた。 母の部屋には、最後まで使われなかった化粧品や、旅行のパンフレットが残っていた。 そのひとつひとつが、母の「生きそこねた願い」のかけらのように見えた。
    ――母の欲しかったモノは、なんだったんだろう。
    一人娘と父のささやかな葬儀までのリアルなタイムラインを追って綴ったエッセイ。

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