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吸血鬼の素敵なショー

  • 南3-4ホール | う-43 (小説|ファンタジー・幻想文学)
  • きゅうけつきのすてきなしょー
  • ひゐ
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 32ページ
  • 200円
  • 2025/9/7(日)発行
  • 吸血鬼だとばれたらどうしよう。
     皆を怖がらせてしまうかもしれないし、怪物として退治されてしまうかもしれない――それでも広い人間の世界で暮らしたい吸血鬼は、思いつきました。『吸血鬼の演技をする人間』の演技をしてみようと。
     人外達の、ほのぼの童話風な物語。

    ======小説冒頭サンプル======

     深い森の奥に、人間に忘れ去られた屋敷がありました。

     知らなければ、存在しないことと同じ――しかし屋敷は確かにそこにあり、吸血鬼の男が一人、まだそこにいました。

    「いったい、いつまでこうして暮らせばいいんだろう?」

     吸血鬼は何百年もの間、屋敷から出ずに暮らしていました。閉じ込められているわけではありません。扉を開ければ外に出られます。森から出ると人間の世界が広がっています。

     ところが、吸血鬼は吸血鬼であるが故に、屋敷から一歩も出ようと思いませんでした。

    「人間のように暮らしたいけれど、どうやっても僕は吸血鬼で怪物だ。僕は人間の世界じゃ暮らせない。人間でないことがばれたら、聖職者に退治されてしまう」

     一見、人間のように見える彼は、よく見ると人間にしては不自然な姿をしていました。

     まず顔色の悪さ。死人のような青白さです。それから先の尖った耳に、口を開くと見えてしまう鋭い牙――普通の人間と比べると、明らかに異様でした。

     そして吸血鬼である彼は、太陽が出ているうちは、外を歩くことができませんでした。ここまで条件がそろってしまうと、誰もが簡単に自分の正体を見破るだろうと、吸血鬼にはわかっていました。

     もしも人間でないと気付かれてしまったら、怪物はどうなるのか。

     排除、退治。それが吸血鬼にとって、最も恐ろしいものでした。

    「いまは聖職者の活動がそこまで盛んじゃないと聞くけど、まだ存在はしている。僕の存在に気付かれたら、絶対に退治されてしまう!」

     吸血鬼としては、種族関係なく、仲良く暮らしたいと思っていました。ところがどうしても自分は吸血鬼であり、人間達から「捕食者」と見られ、敵視されてしまうのでした。そもそも人間は、人間以外の「人間に似た種族」を恐れ、敵視する種族だったのです。

     そのため吸血鬼は、自分の屋敷に長いこと引きこもっていました。そんな人生を歩むしかなかったのです。

     加えてこの吸血鬼は、とても優しい吸血鬼でした。

    「僕が我慢できなくて人間のところに出てしまったら、きっと人間を怯えさせてしまう。それは嫌だな。僕はただ普通に、そして仲良く暮らしたいだけなんだ」

     屋敷の外、森の向こうでは、人間の技術が発展していました。そのため、吸血鬼は昔からの娯楽である読書以外に、テレビを観たりラジオを聴いたりといったことができましたが、世界からは切り離されていました。

     

     * * *

     

     吸血鬼は、荷物の配達に来た魔女に相談しました。

    「いつかこの屋敷を出て、人間の世界で暮らしたいと思うんだ。どうしても吸血鬼だから、普通の暮らしはできないかもしれない。でも、世界の一員として暮らせたらと思うんだ」

    「あら、私が持ってくる娯楽に、限界が来たようですね」

     この魔女は、吸血鬼の昔からの友人でした。魔女の見た目は、紛れもなく人間そのもの。だから彼女は吸血鬼と違い、普段は人間の世界で、人間として暮らしていました。けれども彼女には魔法を使う力や、箒に乗って飛ぶ力が確かにあります。そこで彼女は吸血鬼のために、必要なものを街で買っては時々屋敷に届けていたのでした。

     吸血鬼の屋敷に、定期的に輸血パックが運び込まれるのは、彼女が箒に乗って持って来てくれるためでした。また人間の世界で暮らす彼女は、そこで見つけた面白いものも友人のために持って来てくれます。吸血鬼の屋敷に最近の新聞があったり、新作の本があったり、テレビやラジオがあるのは、彼女からのプレゼントでした。

    「君は多くの本を僕に与えてくれた。テレビやラジオも与えてくれた。でも結局、僕は屋敷からは出られていない。道具を使って世界に触れることはできるけれど、僕はその中に生きてはいないんだ。僕はやっぱり……もっと広い世界で生きたい」

     そこで魔女は、まじまじと吸血鬼を見て、

    「前から思っていたのだけれど、吸血鬼さん、試しに一度、人間の街に出て見たらどうでしょう? 案外あなたは、人間のように見えるもの」

    「でも、吸血鬼だとばれたら、聖職者に通報されて、退治されてしまうよ」

    「実はね、吸血鬼さん。大昔といまでは、人間の世界は大きく変わったのです。いまの人間にとって、私達、魔女や吸血鬼というのは、もう本や物語の中にしか存在しないもので、そもそも過去に本当にいた、ということすら忘れ去られているのです。あの面倒で恐ろしい聖職者達については、まだ存在しています。けれど普通の人間にとって、その聖職者すらも、物語の中にしかいない存在と思われているのです」

    「つまり、僕は怪物だとは思われない、ということなのか? そして聖職者は呼ばれない、ということ?」

    「ただし、うまく誤魔化せないと、人間以外の何かということには気付かれてしまうかもしれません」

     魔女が帰った後の夜、吸血鬼は試しに屋敷を出て、人間の街に行ってみることにしました。屋敷の外に出るのは、いつぶりでしょうか。多少の恐怖はありましたが、人間の街に行く空想は何度も行ってきました。そのため吸血鬼は、問題なく街までたどり着きました。

     街灯が並ぶ道を、吸血鬼は歩いていきます。時刻は深夜。まるで自分が映画の中にはいってしまったようだと、吸血鬼はあたりを見回します。人間の姿はありますが、吸血鬼を気にする様子はありません。すれ違っても、彼らは振り返りません。

    「夜の暗闇のせいか、人間達は僕に気付いていないみたいだ」

     嬉しくなって、吸血鬼はどんどん進んで行きます。そこで気付きました。

    「街に来たのはいいけれど、どこに行けばいいのだろう? たくさん人がいる場所に来たんだ、何か話をしたいなあ」

     そうして目に留まったのは、一軒のバーでした。

     吸血鬼は、これまでに何冊もの本、何作ものドラマを観てきました。普通の人間のふりをして店に入り飲み物を頼むのは、簡単なことでした。

    「どうした兄ちゃん、見ない顔だな?」

     バーの常連らしい客に声をかけられても、緊張したのは一瞬だけ。

    「最近このあたりに来たんだ、この街には何かあるかい? 面白い話を聞かせてよ」

     ――吸血鬼がこのバーの常連になるのに、時間はかかりませんでした。

     思っていたよりもずっと簡単に人間になじめると気付いた彼は、毎晩、そのバーに通うようになったのです。

     望んでいた人間の世界。バーにいる者達は皆気さくに話をしてくれます。吸血鬼も、これまでに読んだ本や観たテレビ、聴いたラジオについて話したり、時には悩みを聞いたりしました。

    「あなたは博識だから、話していて楽しいし、頼りになる」

     人間達からそう言われ、吸血鬼はやっと居場所を見つけられたように思えました。

     誰がどう見ても、そのバーに人間以外の何かがいるようには見えませんでした。

     ところが。

    「前から思っていたけれど、随分顔色が悪いよね。無理するなよ?」

    「よく見ると耳が尖っているね、不思議な人だなあ」

    「鋭い牙! まるで狼みたいだ」

    「そういえば、どこに住んでいるの? 日中は何をしてるの?」

     そう言われてしまうと、吸血鬼はバーに行きにくくなってしまいました。果てに。

    「兄さんって、まるで吸血鬼みたいだな! ほら、映画とかに出てくるさ!」

     ――吸血鬼は引きこもりに戻ってしまいました。

    「やっぱり、変だって気付かれてしまった。人間じゃないと気付かれてしまったら、どうしたらいいかわからないよ」

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