出会って四ヶ月で結婚した夫婦の実態
マッチングアプリ、ガチ勢VSネタづくりの戦い/取れ高に焦る男、進捗に焦る女/こいつ、素人か?
初回でモノを貸してくるな/ロマンティック浮かれモードになりきれない二回目/他の人と比較検討したいならどうぞ/「前略プロフ」で彼氏の苗字にするギャルに共感する夫/結婚の決め手は「公平さ」/太陽の下、咲き誇れひまわりみたいな人が苦手/本籍地は激安居酒屋
「気が合う」ってなんだろう?
映画の感想を言うか言わないか/あえて言葉にしない/世界の見方と会話の抽象度/「明るい人が好き」を解体したい/『ケーキの切れない非行少年たち』から学ぶこと/自分の「心の穴の形」を確かめる/結局、趣味は合うほうがいいのか?
だから東京で生きる
進学や就職で東京へ/ぼくは東京で死ぬ/都会の人が思い描く地方はそこそこ都会/地元への歪んだ思い入れ/「この街は僕のもの」という感覚は/半狂乱の街、東京/むしろ東京のほうが貧乏に優しい/東京と地方、孤独の違い/わたし…東京くんが…すき…
「女はパンの話が好き」あるいは偏見と差別について
女性って、よくパンの話をしてない?/男性は〝みんな〟で盛り上がることに興味がない?/〝あいつら〟は今、女性を尊重するようになったのだろうか/地元の友だちの熱々のレイシズム/「正しさ」と、痛み、葛藤、泥臭いもの
家族にはアゲとサゲがある
「育ててくれてありがとう」への違和感/悪い意味で母を泣かせた日/愛の「詳細」が共有されていない/家族サゲの一例―精神の地盤が育めない/家族アゲの一例―明日を信じられる/アゲが正義でサゲは悪、ではない
三十五歳、君たちはどう生きるか
希望が叶っても、絶望は続く/キャットフードを食べていた夫/「咳をしても一人」から「虚無だが二人」へ/「自己実現」への考え方の変化/労働のプライオリティはどうする?/「終わりがあるから、いい」
一色スミ:夫
オカルトや怪談が好き。電柱などに貼ってある主張の強い貼り紙や、様子のおかしいスーパーのポップを撮影し、収集している。好きな言葉は「シャリキン中大盛り」。妻と頻繁に生肉と内臓を食べる。一人でいるときは食事をせず、グミやジュースをエネルギー源としている。毎日、何もなくさない。
かなめゆき:妻
言葉が好き。死ぬほどインターネットサーフィンをしており、主に市井の人が書いた文章を好む。趣味は「発言小町」の投稿のタイトルに詩を見出すこと。好きな言葉は「単品飲み放題」。かなり頻繁に生肉と内臓を食べる。食事の途中で冷めた料理をわざわざレンジにかける。毎日、眼鏡をなくす。
妻 まず自己紹介的なトピックとして、「マッチングアプリで出会って四ヶ月で結婚した夫婦の実態」というテーマで喋りましょうか。
夫 ぼくたちは二◯二四年の三月末に出会って、一週間後に付き合って、五月に同棲と婚約をして、八月に入籍しました。
妻 その生き急ぎ方だと来年には死ぬだろくらいなスケジュール。ただ、お互いに婚活をしていたとかではないんだよね。
夫 そうだね。ゆきさんはどのくらいアプリをしてたんだっけ?
妻 三十一歳くらいから三十四歳まで断続的にやってた。交際相手や好きな人ができたらやめて、うまくいかなくなったらまた始めて、みたいな。期間ごとに「第◯ラウンド」という呼び方をしていて、第四ラウンドであなたに出会いました。モチベーションとしては、法律婚がしたいというより共に生きるパートナーがほしくて。選り好みが激しいから、いろんな人に会いたくてアプリを使ってた。スミさんは?
夫 ぼくは三十二歳くらいまで結婚していたので、マッチングアプリとは無縁の人生を送ってきた。別れたあとも交際相手がほしいという希望はなかったんだけど、親友に勧められたんだよね。毎週ビデオ通話していて、われわれはそれを「ラジオ」って呼んでるんだけど、ぼくの社会に対するフラストレーションの溜まり具合を親友が心配していて。
妻 鬱屈とした感じだったんだね。
夫 親友もアプリで結婚しているから「絶対やったほうがいいよ、おまえ彼女とかいたほうがいいよ」と。ぼくは自由恋愛至上主義者だったので、アプリのような人工的な養殖場での出会いに対しての忌避感があったんだけど、「まあラジオのネタにもなるし、やりますか」ということで。
妻 マッチングアプリに登録してからは、どういう流れだったんですか?
夫 「毎日いいねを押して」と言われたので、それをやっていた。
妻 親友から指導されたんだ(笑)
夫 そう。写真を見て素敵だなと思ったら……正直に言うと、ラジオで話すためにはマッチしないと話が進まないから、嫌じゃないなって人はいいねを押していこう、という方針。向こうからいいねも来るけど、「自分からいいねを押してマッチできた人のほうがいいよ」とも言われていて。
妻 その心は?
夫 自分が好きな人と付き合ったほうがいいじゃんっていう。
妻 なるほどね。シンプルにね。
夫 ゆきさんは?
妻 私はいいねを押してくれた人にお返しする方式でした。十人~十五人くらいと常時メッセージをしてた。脱落したり増えたりして、会うに至るのは一ラウンドにつき十人くらい。メッセージは合計で何百人以上したと思う。スミさんは第四ラウンドで会った四人目。そっちは?
夫 ゆきさんとマッチしたのは登録して一週間くらいのころ。やりとりしていたのは五、六人くらい。そこまで大勢とマッチしなくて。
妻 写真とプロフィールがあやしかったからじゃないの。プロフって、普通は休日の過ごし方とかが書いてあるのに、「物語が好きです」とか書いてたじゃん。写真もプロが撮ったやつで、妙にきれいで、謎にモノクロで。
夫 アプリを勧めてくれた親友の結婚式で来場者のポートレートを撮るっていう企画があって、そのときの写真を使ってた。
妻 「婚活用でも仕事用でもなさそうな写真だし、なんなんだこの人」っていう雰囲気だったよ。あやしいというか、遊んでそうな人だなと思った。
夫 そうなんだ(笑)。初めて聞いた。じゃあ、なんでいいね返ししたの?
妻 素敵な人だなと思ったから。「まあこの人なら遊び目的でもやむなし」みたいな。付き合わなければいいだけだし。ラウンドを重ねるごとに、私は法律婚がしたいんじゃなく話していて楽しい人と一緒にいたいんだって気づいたんだけど、カルチャー趣味がある人に絞っていたからか、会ってみたいなと思う同年代の男性が減ってきたなとも感じていて。会いたいと思える人にはとにかく会っておこうっていうスタンスだった。