《純文学・幻想文学》
↓本文抜粋↓
列車を指差して「もういるよ」って言ったあとに、犬を撫でながら「くさい」って顔を顰める君が可笑しくって笑うと、君は恥ずかしそうに肩をこづいた。
そのあとに共犯者の私たちは睡眠薬の入ったトロトロに溶けたオムライスを胃に落とす。
私の硬く握った手を開くと、そこには六文銭があった。いつ、どこから握りしめていたのかは覚えていない。ここが何処なのかは、来たことがないはずなのにすぐに理解することができた。もし血が通っていたならば、体温が伝わって銭は暖かくなるところではあったと思う。生憎ここは三途の川の目の前だったので、冷たくも、温かくもない硬い銭をただ握りしめている。長いこと、それはもう途方もないほどの時間をこの川のほとりで過ごした気がする。何故私はひとりなのか、ずっと考えていた。けれど、答えを考えないようにしていた。
川のほとりで私は着物の裾を捲って、ひとりで足を浸す。鴨川の長家から聞こえる風鈴の音を思い出した。時には寝っ転がって、船に乗り川を渡って行く人々を眺めた。子供以外は、皆がばつが悪そうに船頭が率いる船に乗っている。
その中に、ひとり身を乗り出して人を探している君がいた。私がずっと待ち焦がれていた君が。
まだ船が岸辺に着く前に、身を乗り出して私の方へ駆けてくる。着物の裾が濡れてしまうよ、と声をかけようとも私の言葉は喉をつっかえて、引き攣った笑顔で迎えることで精一杯だった。ずっと考えていた言葉もすべて忘れて、私も浅瀬を駆ける。
君の手が私の頬に触れたとき、温かい心地がした。(続く)
感覚が全身を刺激する。
- 月遊戯
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