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ゆりかご経由、どこまでも

  • 南1-2ホール | T-77 (小説|純文学)
  • ゆりかごけいゆ、どこまでも
  • 萌令児
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 78ページ
  • 500円
  • 2025/11/23(日)発行
  • 日常の裂け目、揺らぎを書いた15編の短編

    《純文学・幻想文学》

    短編・掌編・散文詩的な濃密な文章たち


    言葉に沈んでみてください

    2025年再録本になります
     

    ↓本文抜粋↓


    •  ポケットを鳴らさないで

    列車を指差して「もういるよ」って言ったあとに、犬を撫でながら「くさい」って顔を顰める君が可笑しくって笑うと、君は恥ずかしそうに肩をこづいた。

    そのあとに共犯者の私たちは睡眠薬の入ったトロトロに溶けたオムライスを胃に落とす。

    私の硬く握った手を開くと、そこには六文銭があった。いつ、どこから握りしめていたのかは覚えていない。ここが何処なのかは、来たことがないはずなのにすぐに理解することができた。もし血が通っていたならば、体温が伝わって銭は暖かくなるところではあったと思う。生憎ここは三途の川の目の前だったので、冷たくも、温かくもない硬い銭をただ握りしめている。長いこと、それはもう途方もないほどの時間をこの川のほとりで過ごした気がする。何故私はひとりなのか、ずっと考えていた。けれど、答えを考えないようにしていた。

    川のほとりで私は着物の裾を捲って、ひとりで足を浸す。鴨川の長家から聞こえる風鈴の音を思い出した。時には寝っ転がって、船に乗り川を渡って行く人々を眺めた。子供以外は、皆がばつが悪そうに船頭が率いる船に乗っている。

    その中に、ひとり身を乗り出して人を探している君がいた。私がずっと待ち焦がれていた君が。

    まだ船が岸辺に着く前に、身を乗り出して私の方へ駆けてくる。着物の裾が濡れてしまうよ、と声をかけようとも私の言葉は喉をつっかえて、引き攣った笑顔で迎えることで精一杯だった。ずっと考えていた言葉もすべて忘れて、私も浅瀬を駆ける。


    君の手が私の頬に触れたとき、温かい心地がした。(続く)



    •  ギャルと会社員
    最近の若者は距離感がおかしい。 パーソナルスペースが狂っている。


    •  淡水をおしえて
     本当の淡水を知らない。だから、一緒に真似事をして泳ごう。足を伸ばせばぶつかってしまうような、小さな箱の中で、ぶくぶくと電気を伝い、流れてくる人工の空気しか知らない。息の仕方も、目の開き方も、ヒレの動かし方も、分からない。それでも、貴方のうしろなら、溺れていたって、沈んでいても構わない。
     ◇
     女は、空っぽの水槽を見下ろしていた。  
    これは自分だ、そう思った。
     長いこと、自分自身を見つめていた。
     
    • 月遊戯
    感覚が全身を刺激する。
    女の笑い声が耳の奥で響く。夢か現実なのか、もう分からない。

     葉巻の煙が喉を焼いた。次第に全身へと染み渡ると、指先に熱を、次に痺れを感じる。
    身体が椅子に永遠に深く沈み込み、一体化すると、瞼を閉じざるを得なくなった。暗闇の中で色彩が爆発する。色鮮やかにパチパチと花火が打ち上げられ、男の脳内を土足で踏み荒らした。

     
    • 魔法少女の憂鬱

     魔法少女だって、結局はフリーター以下。 薄給に加えて、敵の遺品を質屋に流して日銭を得る生活。

    •  赤い航跡
    漁師は、還ってこられるように身体に刺青を彫る。
    女は暗がりの中で目印になるように、赤い口紅を塗って夜を泳ぐ。
     ◇
    水溜まりが信号機の光を反射し、ネオンの街をさらに色付けた。

    12cmヒールを手に持ち、化粧だけを済ませた女は更衣室の扉を強く閉める。ストッキングの足裏が絨毯を引っ掻いても、汚れることを気にせずに歩いた。

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