こちらのアイテムは2025/11/23(日)開催・文学フリマ東京41にて入手できます。
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心情の中世ヨーロッパ

  • 南1-2ホール | H-13 (評論・研究|文化研究)
  • しんじょうのちゅうせいよーろっぱ
  • sousou
  • 書籍|A5
  • 126ページ
  • 1,000円
  • 2025/11/23(日)発行


  • 新刊です!



    森、見知らぬ人、暗闇——中世ヨーロッパの人びとは、このようなものに恐れを抱いていました。
    現代とは全く異なる中世ヨーロッパにおいて、人びとは日々、どのようなことを考え、生活していたのでしょうか。本書を通して、彼らが見ていた世界を一緒に眺めてみませんか。

    *

    中世ヨーロッパの人びとの心情に迫る、学術的な内容の本です。
    著者が運営するブログ「中世ヨーロッパの道」の読者の方々から、「中世ヨーロッパに関する本を制作してほしい!」とのお声を多数いただいたことから、制作するはこびとなりました。
    歴史に詳しくない人にも楽しく読めて、かつ奥深い内容にすることを心がけました。
    モノクロですが、図版も多数収録しています。

    目次

    はじめに

    一章 中世ヨーロッパの人びとの不安

    一.中世人は何を恐れたのか

    • ミクロコスモスとマクロコスモス
    • 日常世界と異世界
    • 冒険物語における異世界

    二.恐ろしい場所 —— 森

    • 昔話の森
    • 悪魔の住処としての森
    • 聖域としての森
    • 農民による森の利用
    • 森に入る職業

    三.恐ろしい存在 —— アウトサイダー

    • アウトサイダーとは
    • 粉ひき屋
    • まじない女
    • 放浪者

    四.恐ろしい時間 —— 夜

    • 光は神の領域、闇は悪魔の領域
    • 光と輝きを好む中世人
    • 闇と戦うすべ —— 火
    • 長く暗い冬の希望 —— クリスマス

    二章 中世ヨーロッパの人びとのやすらぎ

    一.中世人はなぜ信心深いのか

    • 科学革命以前の宇宙認識
    • 原因譚としての神話や宗教
    • 悩みの解決策としての信仰
    • 奇跡と魔法のちがい

    二.中世人はキリスト教を信仰していたのか

    • 中世期を特徴づけるキリスト教
    • キリスト教が浸透した理由
    • 改宗戦略としての異教文化の取り込み
    • 中世人の信仰生活

    三.異教的な信仰の具体例

    • メリュジーヌ信仰
    • ギヌフォール信仰
    • 樹木信仰

    おわりに


    本文「はじめに」より

    皆さんが、ゲームや物語の文脈で「ファンタジー」と聞いて想起する世界観は、どんな姿でしょうか。それは例えば、魔法が生活に根差して、不思議な生物がいて、身を守る手段としての剣があって、徒歩で遠くまで旅する世界かもしれません。

    このような世界観は、ひと昔前の、電気やガスを使った工業製品が、まだ存在しない時代に似ています。人によっては「いやいや、さすがに魔法はなかったでしょう」と思うかもしれません。しかし、人びとが超自然的な存在や現象を「信じていた」という意味で、その時代に魔法は存在しました。

    このような世界観は、実際の時代に当てはめると、地球上で最も早い産業革命(※)が起こる前に該当します。西洋中心の歴史観では、産業革命以降を「近代」と定義することが多いです。そのため、産業革命以前の時代を指す言葉として、「前近代」をよく使います。本書でもこれ以降、ファンタジー世界に似た時代を指す言葉として、「前近代」を使っていきます。

    私たちはなぜ、ファンタジー世界を前近代に求めるのでしょうか。その理由の一つは、失われた時代に対して、何らかのノスタルジア(郷愁)を抱いているからだと思います。それは例えば、魔法や奇跡が根差した生活だったり、剣を使用しての戦闘だったり、徒歩や馬による旅だったりします。すなわち私たちは、現代の生活からは失われてしまった「何か」を求めて、ファンタジーの世界に親しむのだと思います。

    ファンタジー世界は、無から創造されるわけではありません。どのファンタジー世界にも、必ずモデルとしている既存文化があります。というのも、文化とは途方もない長い時間をかけて、あまたの人間の思考を介して、形成されていくものだからです。たとえ頭の中だけの空想だとしても、人間ひとりが生きられる時間内で、たった一人で、まったく新しい文化を創造することはできません。

    例えば、J.R.R.トールキンは西洋文化をモデルに『指輪物語』の世界を、田中芳樹は中東文化をモデルに『アルスラーン戦記』の世界を、上橋菜穂子はアジア文化をモデルに『精霊の守り人』の世界をつくりました。このような著名な小説家でさえも、既存の文化をモデルにして、ファンタジー世界を構築しているのです。

    私自身も含めた、ファンタジー愛好家はよく、ファンタジー物語を、その世界がモデルとしている文化によって、西洋系、中華系などと分類します。分類することで、好きな世界観を他者と共有しやすくなり、より楽しくファンタジー愛好活動(?)をできるからです。

    そのうち西洋系ファンタジーは、中世期の時代、つまり「中世ヨーロッパ」の文化水準で設定されることが多いです。このようなファンタジーを、本書では「中世ヨーロッパ風ファンタジー」と呼びます。

    ネットを通じて、手軽にオリジナル漫画や小説を公開できるようになった昨今、中世ヨーロッパ風ファンタジーを創造するための、指南書が数多く出版されています。ところがいずれの本も、世界構築のための物理的側面――登場人物の服装、食事の献立、建物の形状など――に着目しがちで、人びとの心理的側面には着目しません。

    たしかに世界観構築のためには物理的側面も大事です。しかし物語とは大前提として、人間の心の動きに着目する芸術だと思います。仮にファンタジー世界の人びとが、現代人とまったく同じ思考や価値観を持っていたとしたら、せっかくつくりあげた世界観が充分に活かしきれておらず、個人的には少しもったいなく感じます。そこで中世ヨーロッパ風ファンタジーを創造するための、心情の指南書になることを目指して、本書を執筆することにしました。

    本書の目的は、中世ヨーロッパの人びとの心情に迫ることです。現代とはまったく異なる、中世ヨーロッパにおいては、人びとは日々、どのようなことを考え、生活していたのでしょうか。本書ではとりわけ、人びとの不安の源である「恐怖」の対象と、その恐怖を解消して、心穏やかに生活するための「信仰」に着目します。

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