物語という語はもともと話すこと、見聞きした内容を語り伝えることを意味しました。光源氏らのありさまを見聞きした女房(侍女)が、いきいきと物語る。吉田訳ではそれを原点としながら、令和に生きる人が耳で聞いて理解できるような分かりやすさを目標とし、『源氏物語』の世界をお届けします。
「1 光源氏、時分の花」で語られるのは、光源氏の誕生から青年期です。様々な女性と関わりながらも、心のどこかで継母 藤壺を想い続けています。
◆訳文サンプル(注釈を本文に折り込み、前からスムースに読めるよう、語順、文の長さなども調整しています)
あれは――何天皇の頃でしたか――。女御(にょうご)や更衣(こうい)が何人も帝のお側(そば)仕(づか)えをしている中に、大変尊い身分というわけではないお方で、特に愛されている女性がいたのです。お部屋の関係から「桐壺更衣(きりつぼのこうい)」と呼ばれたお方でした。
桐壺更衣が帝のもとに見えたその日から、「わたくしこそが帝に愛されるべきだ」と自負していたお妃た(きさき)ちは、彼女を目障りな存在として蔑む(さげす)と同時に、めらめらと嫉妬心を燃やしました。桐壺更衣と同じような身分、あるいは、それよりも低い身分の者たちは、なおのこと憎らしく思っています。
朝夕宮仕えをするにつけ、周囲の心をざわつかせ、恨みを買っていったからでしょうか、桐壺更衣は徐々に具合が悪くなり、実家に下がりがちになりました。何とも心細そうなありさまです。しかし、そういう状態になってこそ、ますます帝は「そばにいたい」とお考えなのです。「桐壺更衣、なんとかわいそうで、愛おしくて――あぁ、もっと一緒にいたい」と。こうなると、世間が悪い評判を立てていようと、気にする余裕などなくなってしまいます。都の誰もが二人のうわさをするのも時間の問題でした。
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