初瀬川みそら/茉莉花・黒薔薇・彼岸花
中途入社で入ってきた石田裕司は、桜木日向子よりも七つ年上の寡夫だった。
「誰かのもの」に対する歪んだ欲望を持つ日向子と石田は会社の飲み会の帰り、巡り合わせによって同じ車に乗ることに。
年下上司と年上部下、会社の上下関係に生まれた空間にあって送り狼の心地で日向子は石田を誘惑していく。
しかし帰路の中、石田からも、日向子に対して抱いていた懊悩の思いが打ち明けられる。
——その唇は弧を描いて、獣じみた欲望を写しているように思えた。
上下の唇で交わる快楽に溺れる、二人の夜の物語。
あさみゆう/秘密の口付けレッスン
『あたし』は失恋した夜、ヒロトから勧誘を受けとあるバーに入店する。
慣れないアルコールに酔い、ヒロトにある悩みを打ち明けた。それは、キスができないというものだった。
このままずっと恋愛できないのでは、とネガティブになる『あたし』に、ヒロトは「俺で練習してみない?」と言う。
そこから始まる甘くて官能的なキスのレッスン。
間宮犬成/弱気なキスで壊してロックを
シンガーソングライターのらんちゃは重篤なスランプに陥っていた。一年前に行きずりの男にキスだけで簡単かつ徹底的に絶頂させられ、その結果、身につけた妖艶で変幻自在な歌で一気にメジャー契約に漕ぎつけたものの、次第にその頃の歌が歌えなくなってしまったのだ
そんならんちゃを自分のキスで覚醒させようとするプロデューサーのエルたんとスタジオ内で揉み合っていたところ、偶然、音楽専門チャンネルに流れたラップグループのPVに男の顔が大写しになり、「キスの主だ!」とらんちゃは叫んだ。男の正体を知ったらんちゃは早速行動に出るものの…
明星/キッシングディジース
推しのためにウリをやってたら、キス病、っていう感染症になっちゃって稼げなくなっちゃった。地下アイドルのシズルに、スパチャ出来ないよお……ん?どうして泰司、ここにいるの? アンタって昔からアタシのこと追いかけて、とうとう大学まで……え? やっぱり? ウリをやめろって、そんな権利アンタに……泣かれると弱いなあ。じゃあ、あたしのこと買ってみる?
……そこから始まる、若い二人の青春の記録。
いずみのあ/ドライブデート
社会人の翔と日鞠は初夏のお泊りドライブデートに出かける。告白されて穏やかな交際がもう何年も続いていて楽しい時間を過ごせた。けども日鞠の心情は複雑で…。日鞠は思い切って翔に積極的になってみる。
まゆり/くちばし
29歳の翔真にはみちるという五歳年上のバツイチのセフレがいる。
みちるの上唇と膣の奥には、翔真がこっそりと「くちばし」と呼んでいるぷっくりとした突起があって、みちるは、その「くちばし」を愛でられるのが好きだ。
みちるの「くちばし」のひとつである子宮頸部には前がん病変があり、みちるは産婦人科医である別れた夫の拓海のところで、二か月に一回検査をしている。
みちるはかねてから希望していた子宮頸部の円錐切除の手術を拓海に執刀してもらうことになり、翔真とみちるは手術の前に思い切り愛し合うために、温泉旅行に出かけるのだが……。
まっしぐら/恋の深さは測れない
肌寒い駅のホーム。川村タカシは一人、電車を待っていた。カーゴパンツのポケットで携帯を握る手が震える。
向かう先は友人に一緒に行かないかと誘われた大学のキャンパス。
高校時代、クラスや部活で一緒だった内田蘭。ずっと想っていながら告白できなかった彼女がそこにいるかもしれなかった。
秋の陽射しが柔らかく、街路樹のイチョウが色づく。学祭の喧騒の中、たこ焼きの香りが漂い、ミスチルの曲が響く。
模擬店の賑わい、学生たちの笑い声、色とりどりの看板に包まれ、タカシは奇跡的に蘭に再会する。
彼女と交わした他愛ない会話や軽やかな声が鮮やかに蘇り、かつて抱いた淡い想いが静かに動き出す。
ウラジーミル/唇は嘘をつく
野々宮美佳子はポリアモリーの実践者として、夫の徹と恋人の遙と3人の間でポリアモリラスな関係を築いていた。一見、平穏で幸福な日々が続いているように見えたが、ささいな行き違いから遙と喧嘩になった美佳子は、彼から夫との間のセックスレスを見抜かれ、夫婦愛の不存在を指摘されてしまう。
不安になった美佳子は徹との出会いの場となったポリアモリーラウンジの主催者のネネに相談する。ネネはポリアモリーは魔法の言葉ではなく、当事者が互いを理解し合うためには、自分で言葉を重ね続けていくしかないと言う。ネネの言葉を受けて、美佳子は徹と遙、そして己の心と向き合う決意を固める。