こちらのアイテムは2023/11/11(土)開催・文学フリマ東京37にて入手できます。
くわしくは文学フリマ東京37公式Webサイトをご覧ください。(入場無料!)

獣心日記

  • 第一展示場 | L-31 (小説|純文学)
  • じゅうしんにっき
  • 四ノ瀬了
  • 500円
  • 2023/11/6(月)発行
  • 若きM男性の苦悩の日記をベースにした小説です。

    冒頭

      『十月一日  首輪を買った。家から徒歩二十分のところにあるペットショップ、名前は忘れた。犬は飼っていない。ひとり暮らし、ペット不可の物件。先月から、俺はペットを飼う気も、飼っているわけでもないのに、そこに行っては、何も買わずに、帰ってきた。帰って来る度、俺はもう二度とあんな所には行かない!と思い、歯噛みしていた。しかし、脚が向くのだ。だからもう、行かないために、買うことにした。そうすれば、満足するはずだ。もしかすると、風俗に通う男共も同じようなことを考えて、それがより一層の、快楽の源となっているのではなかろうか。そう思うと吐き気がすると同時に笑えてくるような気がする。  これが、今日の出来事。今日の出来事の内、俺が最も心動かされたこと。なんとも、くだらない。書いた端から、厭な気分になってきた。しかし、今日からこのノートに、日記をつけることに、決めたのだ。俺の異常を俺の目で監視するためだ。だれるのを防止するために、日記は子細に書きすぎず、メモ程度にとどめること。これは俺とお前の規則だ。』
     卯佐美竜一は、買ってきたばかりのノートの一ページ目に右のように書き記し机の引き出しの奥へと閉まった。机の上には、買ってきたばかりの布地の小さな首輪が置かれていた。ちゃちな、ストライプ柄の入った紺色の首輪だった。逆に、ペットショップに高級感のある首輪を求めるのが間違っているよ、と、竜一は思った。 本物の犬に高級な首輪を着けて散歩している人間を、見たことがあるか、無いだろう。一昔前ならまだしも、現代では見ない。犬にとって着け心地が良く、運動の問題にならず、軽量であり、手入れが楽であり、安価であることが、一般の犬の首輪にとって、大事なことで、需要があるからだ。 自分の所有物であるという印付けの意味よりも、利便性、犬のためを思うことが重視されるのは当然だ。竜一は、首輪を穢い物を扱うようにして持って眺め、机の上に置いた。 側にこれを置いておくことが、まず、大事だと思って買ったのだ。 自分の気持ち、覚悟を確認したいのだ。 いきなり、本当の犬に使うのではない首輪を買うには、勇気がいる。それに、ちゃちなものは不要だ。ガラスケースの中に納められた数万円の首輪。竜一は半年ほど前にそれを見た。記憶の中にこびり付いた。ペットショップには通えても、その店には近寄れなかった。 もう一度行けば、買う、か、何かが終わるような気がした。何かが終わる。人間性の一部を失うということだ。正しい人間性、コントロールを失う、恐怖。 いきなりあんなものを買おうと、思わない。勢い買おうかと思った、買っても良かったが、むなしい気分になるだけと思ったのだった。 一人高価なそれを眺めて、余計に欲望を高めたところで、相手が無い。竜一には彼女がいた。しかし、それだけだ。であればまず、誰に何をとがめられたり、思われたりすることもない、犬の首輪を一つ買ってそばに置いてみようと思ったのだ。竜一はそれを自ら着けようとは少しも思わなかったし、犬や他の何かにつけてみようとも思わなかった。竜一は少しの間、買ってきたブツを手遊びし、机の奥へ仕舞い込んだ。

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