2019年に産声を上げた本誌は、自身も慢性疾患を抱える、Olivia Springが編集・発行人を務める雑誌であり、居場所でもある。Oliviaは、慢性疾患患者として“普通に”働くことの難しさに長年悩んでおり、自身のプロジェクトで自分が働きたいと思える環境をつくりたいとの思いから本誌を創刊させた。世界中からの寄稿で構成した本誌は、デザイナーも含めて携わる全員がなんらかの疾患や障害と付き合っている。障害や病と向き合う姿を紹介する雑誌は他にも複数あるが、終始当事者自身が生の声を発している点で世界的にみても珍しい。
22名のエッセイや詩、アートワークと、編集人のOliviaと本誌デザイナーのKaiya Waereaによる往復書簡が掲載された今号から、2つのエッセイと4つの詩、OliviaとKaiyaの往復書簡を日本語訳し、ブックレットとしてまとめた。翻訳とブックレットデザインは前号同様
きくちゆみこさんにお願いした。
1つ目のエッセイは、ノンバイナリーのトランス男性で「女性らしさ」と結びつく疾患を抱えてきた彼が、祝福されるべきだと自身が考えるホルモン治療についてなぜ周りから哀れまれるのかや今まで受けてきたマイクロアグレッションについて。2つ目は、護身術クラスを受講することになった車椅子ユーザーの筆者が、なぜその必要に迫られたのか、また目に見える障害を抱えながら生活する中で感じる恐ろしさや第三者への申し出がまったく伝わらなかった経験などについて。どちらも切実な訴えだ。
往復書簡では、何年も慢性疾患と付き合う二人が、目に見えない疾患ゆえに疑いの眼差しで見られてきた経験や、本誌を制作する過程での気持ちの変化、病を抱えながら働くことなどが語られる。
一人一人の障害も病も悩みも当然ながら違い、他者のことを完璧に理解することはとても難しいことだと思う。けれども、理解しようとすることは誰にでもできるはずだ。相手と向き合い対話を重ねることで、互いを認め合える世の中に変わっていくことを心より願っている。