長田幹彦(ながたみきひこ、1887~1964)は、大正から昭和を駆け抜けた大衆文学作家であり、しかも流行作家であった。明治の終わり、谷崎潤一郎と並んで、文壇の寵児としてもてはやされていた。しかし、長田自身、文壇の中だけでは飽き足らず、婦人雑誌、家庭雑誌、新聞などに長編、短編作品を数多く発表する。映画化された作品も多く、人々の好む男女の恋愛のもつれを「哀艶情話」として表現することができたからである。愛する誰かのために生きる女性の生き様を描くことに特徴があった。
本巻に収録した「蒼き死の腕環」は、大正13(1924)年1月から一年間、『婦人世界』に連載された「探偵小説」である。関東大震災後の横浜、東京を舞台にし、ヨーロッパから帰国したばかりの曲芸師・房江と美少年ヨハンの翻弄される生活を描いている。房江は命よりも大事な蒼き腕環をいつも身につけていた。しかし金貸しの李爺には、死を呼ぶ腕環だと言われる。ある日、ヨハンが何者かに連れ去られてしまった。愛するヨハンを救うために、房江は世界を「改造」しようとするアメリカの秘密結社LLL団に決死の覚悟で挑んでいく。彼女は秘密結社の一員のフリをして、実は日本のために命を捧げようとしていたのだ。自己の立場に惑うことなく、ヨハンを助けようとする房江の心はどこまでも尊い。「新しい様式の探偵小説」の誕生である。
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