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暗い青春アンソロジー プレイバック。

  • ア-12 (小説|純文学)→配置図(eventmesh)
  • くらいせんしゅんあんそろじーぷれいばっく
  • 大藤凛・あるみな・ソーイング・七坂読人
  • 書籍|新書判
  • 150ページ
  • 800円
  • 2020/11/22(日)発行
  • 暗い青春をテーマにした短編小説集です。
    「黒い自転車の男」 大藤凛
    「プレイバック。プレイバック。」 ソーイング
    「天使の羽」 あるみな
    「少女は劇団ひとりになりたかった。」 七坂読人

    **********

    黒い自転車の男

     障子の骨のうえをゆっくりゆっくりと進む自転車を、篤人はじっと見つめていた。
     自転車も、それを漕ぐおそらくは男も、黒の絵の具で塗りつぶしたような色をしている。チャルメラおじさんみたいでもあるし、まえに原爆資料館で見た写真のなかにいた黒焦げのなにかのようにも思える。はじめて見たときは怖かったけれど、いまではすっかり慣れてしまった。
     お母さんはもう眠ってしまった。階段の手すりにつないでいる犬も、ときおり鼻を鳴らしてからだを縮こまらせるだけで起きる気配はない。ついさっきまで部屋を暖めていた石油ストーブは、タイマーが切れて止まっている。
      もうすぐ夜明けの時間かもしれない。
     ギィ、ギィ、ギィ――ゆらゆら揺れながら進む自転車は、小指の幅ほどの骨のうえを、けれど落ちずに進んでゆく。
     篤人は今日こそ、最後まで見届けようと思っていた。
     というのも、気づけば障子の骨のうえにいるそれは、いつもふとした拍子に消えてしまうのだった。万が一にも起きていると知られてはまずいものかもしれない。掛け布団の隙間から目だけをのぞかせ、息を殺し観察を続ける。
     篤人は自転車を漕ぐその男に、すこしの憧れを抱いていた。篤人は自転車に乗れないのだ。
     しばらく観察を続けたところで、家のまえの道路を一台の車が通り過ぎた。ヘッドライトに照らされて、一瞬、障子の向こうの窓が真昼のように輝く。ハッとして目を離した隙に、黒い自転車の男はいなくなってしまった。

    **********

    プレイバック。プレイバック。

     プレイバック。プレイバック。

     うだるような暑さとは、実に鬱陶しいものである。
     深夜。たぶん午前二時を回った頃。
     人気のない田舎駅のホームに佇んで、表示の消えた時刻版を見ていた。
     着替えてだいぶ経つTシャツはべたつき、苛立ちを煽る。
     全てが手遅れだった。  

     プレイバック。

     どうにもならないのに、電源の切れた携帯電話を太一は開く。  
     何度目かになるその行為は、ブラックアウトした画面を確認、ついでに電源ボタンを数回ポチポチと押した挙句に閉じるという徒労に終わった。  
     当然だ。終電が過ぎて、既に二時間は経っている。朝、家を出たときに半分もなかった充電など持つわけがない。
     「あー……、なんで遊んじゃったな、俺」  
     後悔と共に、さっきまで寝転んでいたカラオケのシートを思い出す。
     「なんで寝ちゃったかなぁ……」  
     しかも置いてくだろうか、普通。  
     律儀に人数分の千円が押し込まれていたポケットのことを想い出して、太一は苦虫を噛み潰す。薄情な級友達に文句の一つでも言ってやりたいところだったが、それが叶わないことは今さっき確認したばかりだった。
     
    **********

    天使の羽

    「ランドセルになりたい」
     無意識に、私はそんな言葉を口にしていた。
    「ご飯粒落ちたよ」
     隣から指摘を受けて、膝に落ちた米粒をつまんで食べる。
     自分でも変なこと言ったなぁとは思う。思うけど、別に訂正するつもりはない。
     だって、本当のことだし。一番隠したかった人に知られたし。
     ランドセルになりたい。どうせなら、かわいい女の子の。

     東播大学の裏庭。そこは決まって人がおらず、昼休みは穴場となっている。
     狭く薄暗い上に暖かい日は地を這う虫が多く、その上裏庭にあるのは日の入りを遮る植木と古びたベンチだけしかないから、昼休みは完全に穴場となる。
     私と友人の中島冴香は、毎日昼休みになるとここで昼食をとる。薄暗さも虫も、教室内の遠慮も配慮もない騒がしさに比べれば気にならない。
     ベンチに腰掛けて、弁当をつつきながらふと思いついた話題で話をするのが私たちの毎日。でも今日は、一つだけ違うことがあった。
    「そういや珍しいね、優凪がおにぎり食べてるとか」
    「そうかな。割と好きだよ、コンビニおにぎり」
     通学路のコンビニで買ったシーチキンマヨのおにぎり。体に良いとは言い難い濃い味がなんとも美味しい。ちなみに冴香は弁当持参だったりコンビニ食だったりコロコロ変わる。今日は弁当持参だ。

    **********

    少女は劇団ひとりになりたかった。

    00
       
    『ちょこっと歩きたくて、わざと家から少し離れた場所でタクシーを降りた。風が強いけど、風に飛ばされないように帽子を手でおさえる自分は嫌いじゃない。止まってる車の窓ガラスに映してみたが、やっぱり嫌いじゃない』――川島省吾

      01
     全時代の恋愛活劇において、素晴らしきエモの要因として使われがちな失恋なるシチュエーション。
     それを私がこの身をもってして体験したのは遡ること二十と一年前、シンプルに言ってしまえば中学二年生の冬の事だった。
     あの日はその年の冬の中でも特に降雪の酷い一日で、告白なる雄と雌の一大イベントにおけるお約束の地の体育館裏をセレクトしようにも、そもそも屋外での告白が論外な状況にあったのだ。
     それは日を改めればいいだろうが。
     と大人になった私はあの日の事を思い出すにつけ、そんな無粋な指摘を中学二年生の杵井翔子に数々の恨み言と共に浴びせたくなる。
     しかし恋に恋するティーンエイジャーだった人生絶頂期の私に、仮にそんな正論をぶつけた所で聞く耳を持ったとはとてもじゃないが思えない。
     タイムスリップを題材としたSF作品で過去の自分に忠告をする事でその後に巻き起こる事件を未然に回避するなんて今ではテンプレな筋書きはある。

    **********

    どうぞ、よろしくお願いします!

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