こちらのアイテムは2020/11/22(日)開催・第三十一回文学フリマ東京にて入手できます。
くわしくは第三十一回文学フリマ東京公式Webサイトをご覧ください。(入場無料!)

白い橋

  • エ-39 (小説|純文学)→配置図(eventmesh)
  • しろいはし
  • 多賀優仁子
  • 書籍|電子書籍
  • 180ページ
  • 380円
  • 2020/11/22(日)発行
  • 多賀優仁子 「白い橋」


    ただ、大阪を見下して、引き合いに出すところが、神戸っ子らしい嫌味だ。神戸の人は神戸愛がすごく強いというバックグラウンドがあるせいかもしれない。そして、大阪人は神戸人に忌み嫌われている対象らしいと、この学校に来てからよく感じる。例えば私が、京都の出だったら、ここまでの鼻つまみ者にはならなかったかもしれない。大阪出身者は、もしかしたら全国的にも煙たがられているのかもしれないが、兎に角、ハイカラでお洒落で、海と山を持つ神戸という街の住人からしたら、大阪など関西圏に入れたくない下級都市なのだ。
    しかも、そんなお上品な神戸にある中高一貫の女子校へ、非常に珍しい形で、高校一年生の終わりに、私は入学してしまったので、余計に悪目立ちしているのだ。基本的には中途入学できない規則のある学校だが、私の母方の親戚が皆この女子校の出身者であり、多額の支援金を払ってきた事実と、私の成績がすこぶる良かったので、特例措置が認められたのだ。しかし、大阪の池田から神戸の六甲まで通うには、一時間半かかる。つまりは往復三時間を費やして、私は通学している。もちろん、移動中に読書することやスマートフォンを眺めることで、時間を潰すことはできるが、なかなかの辛抱を要する時間だ。それでも、私がこの閉鎖的なお嬢様学校に通うのには訳がある。
    「細貝華君、ちょっと美術準備室に来ぃ」
    「あの子、笹倉に呼び出されとうよ!」
    「いやあ、やらしいなあ」
    女の子達の嬌声が上がった。私は甲高い声にうんざりしながら、真っ白なカンバスと真新しい油絵の道具箱を置いたまま、面倒臭い気持ちで席を立った。ロリコンという噂の老いぼれ教員である笹倉と密室で話すので、くだらない憶測が飛び交うことだろう。
    六畳ほどしかない美術準備室は油絵具特有のツンとした匂いが漂っていた。壁沿いに置かれた大きな本棚には、たくさんの美術書や画集が詰め込まれていた。そこに入りきらない文献は、室内の床に直に、高々と積みあげられて、雪崩を起こしそうな様相を呈していた。文字通り足の踏み場のない状態の中で、私はなんとかつま先立ちして、室内に入り、扉を閉めた。本の山の奥には、こちらからは裏向きになって見えないカンバスが、いくつも並べられていた。そのカンバスに囲まれるように、笹倉は安楽椅子に腰かけて、彼の背後にある窓から見える円型校舎を眺めていた。
    「細貝華君、君は絵が嫌いなんか?」
    「……」
    「僕にとっては、君がこの学校に来たややこしい経緯はどうだってええ。ただ絵を好きかどうかだけ知りたいんや」
    「……好きです、言うても、嫌いです、言うても嘘になります」
    「ふうん。おもろい答えやなあ」
    「君のクラスはあの円型校舎やったかな?」
    「……はい」
    「あの校舎をデザインした建築家のことは知っとうか?」
    「……いいえ」
    「そうか。君、大阪の池田に行ったことあるか?」
    「……池田に住んでます」
    「そら、縁があるなあ。池田にある『白い橋』っちゅう画廊を建築したんも、あの円型校舎をデザインした人なんやで」
    「はあ……」
    「そや。君、これから週に一回、学校帰りに『白い橋』に寄りなさい。月曜以外は夜の七時まで開いてるはずやから」
    「は?」
    私はぽかんと口を開けてしまった。
    「あそこは、絵だけやのうて、色んな展示をしているはずやから、見に行きなさい。それでその展示の感想文を僕に提出しなさい。おもろい感想文やったら、毎週美術の時間に絵を描かんでも、Aの成績あげるわ」
    「……ほんまですか?」
    私は疑わしげな声で、笹倉に確認した。
    「嘘ついとうと思うんか? 大人が皆嘘つきなわけやあらへん。ほんまや。ただし、おもろいことが条件やで」
    「……おもろいことですか」
    「そや。ほんなら話は終わりや。早速今日行きなさい。もう六限のチャイムも鳴る。帰りや」

ログインしませんか?

「気になる!」ボタンをクリックすると気になる出店者を記録できます。
「気になる!」ボタンを使えるようにするにはログインしてください。

同じ出店者のアイテムもどうぞ

旧友は蛍を見たかさらば、名もなき群青たちやわらかな水放課後の彼女Summer Inspiration十時前JOKERに愛された男およそ夏のおわり白い橋カフェ・マリオネッタリストランテ・マリオネッタやわらかな水青空の月およそ夏のおわり旧友は蛍を見たかさらば、名もなき群青たちSummer Inspiration全部、嘘。マーメイドブラッド

「気になる!」集計データをもとに表示しています。