【新刊です!!】
「マンガ物理学」というテーマで書かれた小説アンソロジーです。
「絵には描けないものが書ける」というのが小説の力。そこを曲げ、敢えて「絵にしか描けないもの」を書こうとするとき、小説は見えないコマ割りやフィルムの中で藻掻き喘ぐ。果たして活路は見つかるのか?
※マンガ物理学とは、マンガやアニメの中で頻繁に見られる「物理現象」についての総称であり、学問の名前ではありません。
特集「マンガ物理学」
マンガ物理学とはなんでしょうか?
皆さんは見たことがないでしょうか? 何かを夢中で追いかけて崖から思わず飛び出してしまった人が、しばらく走り続けて、ふと自分の下に地面がないことに気付いて落ちていくところを。そして地面に激突してできた人形の穴からけろりと這い出してくるところを。人が背丈ほどもある巨大なハンマーを自分の背中やコートの内側からするりと取り出すのを。そのハンマーや上空から突如降ってきた金床を脳天で受け止めた男の額から星やヒヨコが飛び出し頭の上を回るのを。ハンマーや金床の重さや勢いがあまりに大きかった場合は、潰された者が薄っぺらになって風に飛ばされるのを。
皆さんは見たことがあるのではないでしょうか? 電気の流れた人体から骨が浮かび上がるのを。吹き飛んでいった物体が視界から消えるとき、一瞬キランと光るのを。あまりに異様なものを見たとき、目が飛び出して床に転がったり、皿のような目が何重にもなるのを。空中を人が泳ぐのを。回転するものが形状を問わず飛んでいくのを。
そんなことが果たして可能なのでしょうか?
それを可能にするのがマンガ物理学なのです。
今回の『泡 第5号』では皆様をマンガ物理学の多様な世界へご案内したいと思います。
(「序文 マンガ物理学の大嘘の起源についての詳説」より)
淡中圏「エイブリーシティの一夜」 今日はこの街が最も凶暴になる日。今日ばかりは大人しいものたちも歯を剥いて相手に噛みつく。小さな子猫がドーベルマンに、店員が客に、スーツとネクタイをしたものたちがギャングたちに、紙が鋏に、スプーンがフォークに、ネクタイが首に、コバンザメがオオバンザメに、左手が右手に、臼歯が犬歯に。
そう、今日はコロシアムで格闘技大会の決勝が行われる。この街で最強の存在が決まるのだ。
鹿島渡「七〇一号室の黒電話」 ただ一つ、変わっているなぁと思ったのは、そこに備え付けられていた卓上電話でした。これが使い古された年代物の黒電話だったのです。今時、黒電話なんて卓上電話で使っているところもあるのだなぁと、私はそこだけ妙に感心してしまったのですが、それにしても、何か引っかかりを覚えるであるとか、イヤな気持ちになったとか、そんなことは全くなかったのです。
鹿島渡「ピヨピヨチキンパーリー」「何を言ってるのか全然分かんないんですけど。え、アンタの頭をハリセンで叩けばいいわけ?」
「うん、思いっきり、渾身の力を込めて殴って欲しいなぁ」
月橋経緯「高見柄落太郎」 わかったことは、足場が急になくなってもひとは落ちないということ、そしてたとえそれに気づいたとしても、やはり落ちないということである。これは、落太郎にとっては重要な発見のようにおもえた。
みた「ある狂人の手記。あるいは、コマ割り宇宙のパラドクス。」 コマ割り宇宙というのは、名前の通りコマ割りされた宇宙のことです。つまり、わたしのいる宇宙のことです。みなさんのいる宇宙は、ただの宇宙です。
ふたつの宇宙は別々に存在しているわけではなく、同じ場所に存在しています。ただ、わたしとY子だけが不思議とコマ割り宇宙にいるのです(あ、Y子。またY子と言ってしまった。忘れてください。お医者様に説明するときも、Y子の名前をだすといつも話が進まなくなってしまうのです)。
稲田一声(17+1)「Deadlineの東」あはせ鏡
は物いう
せいぶつ
鏡うつし
「鏡写し、生物は物言う合わせ鏡」
「合わせ鏡は物言う静物、鏡写し」
表紙イラスト・デザイン:海老蔵
(ツイッターアカウント:@sashimi0404)