人生を、旅して二人、愛知らず。愛を求めて、交換日記。
今、一冊の日記帳が開かれる。交換日記のようだ。女と男が交互に書いた、愛の記録がここにある。
少々、覗き見してみよう。
時は某大学の入学式だ。
女は柳町尼子(やなぎまちあまこ)。
闊達な性格をしていて、健康で豊満な肉体美を持つ。どうやら自分の頭が悪いと気にしている様子だ。
彼女は文学部に所属し、また文芸部の門も叩いた。研究テーマである三島由紀夫『憂国』を気に入っている。自分でも文芸が出来るようにと、文芸部に入った。
文芸部にて、彼女は一人の男に出会う。
男は佐川良人(さがわりょうと)。
大人しい性格をしていて、無難を選ぶ静かな男だ。体格は細長く、鼈甲縁の眼鏡を愛用する。
彼の所属は理学部だが、文学も好きだから文芸部に入ったようだ。彼は三島由紀夫『憂国』に複雑な思い入れがある。尼子と出会ったことで、彼に転機が訪れる。
部員のいない部室で邂逅した二人は、そのままサークル仲間となった。闊達な尼子と静謐な良人は対照的な人物だが、仲自体はよく、一年を穏やかに過ごして翌年。
一年の終わりの春休み、聖ウァレンティヌスの祝祭日に、尼子は良人に有りっ丈の思いで告白する。
赤熱の愛情は女を動かし、行動に走らせたのだ。結果、良人は愛を受け取り、二人は交換日記を始めることになる。
尼子にとって、その恋は初恋ではなかった。良人が、彼女の初めての恋人だった。失わぬよう、丁寧に愛情を育てて行こうとする。慎ましく、時には激しく、尼子は愛を求める。
良人にとってもまた、初恋ではなかった。だが、彼には過去にも恋人がいた――あまり長くは、続かなかったが。彼はある意味に於いて、愛されることを怖れていた。
それでも良人は尼子を失わぬように努め、尼子は良人に尽くす。ほんの少しでも間違えれば壊れそうなその関係を、二人共大事に両手に包んで歩んでいく。
二人の恋は、世界を変えたりしない。だが、どこにでもいるような恋人同士でもなかった。
少し変な所のある尼子と、過去に暗い翳を持つ良人の恋愛模様は、その実世界のどこにもない、二人だからこそ生み出し得る一つの綾であった――二人の日記に、顕れる。
果たして幸せに歩む尼子と良人は、どのようにして結ばれ、どこへ向かうのだろうか――。
尼子の日記を風合文吾が、良人の日記を善之新が書く合作企画は、今ここに幕を開ける。