ピチチチチ、チチチ。
不揃いな鳥の歌声があわく耳をくすぐる。
これはなんて鳥だろう。家の近所で聞くのとはすこし違う気がする。じいっと耳をそばだてるそのうち、甲高くて澄んだ歌声の群の中に、ぽつりと不協和音が混ざっているのに気づく。
リズム感はどことなく不安定だし、音階がところどころ外れてる。ああ、こいつか。もしかして。
まさか、ほんとうに聞けるだなんて思っていなかった。忍がいつか教えてくれた、囀るのがいやに下手な鳥だ。
なあ、忍。あってる?
心の中でだけそっとそう呟き、じいっと耳をそばだてる。
ピピピピ、チチチチ、ピチチチ。
個性的だなんて言葉が慰めになるのかわからないけれど、あからさまに一匹だけ調子が違う。これで大丈夫なんだろうか、ほんとうに。もしかすればそのうちうまくなるのか、それとも。
ほら、がんばれ。聞いててやるから。
ちゃんとどこかにいるはずだから、おまえのことをわかるやつだって。
心ばかりのエールとともに、重く塞がった瞼をゆるくしばたかせながら、いつもよりもすこしだけ広々としたベッド軽い身じろぎをする―でも、『半分空いた』わけじゃない。腕の中にはぴったりと寄り添うようにしながらすうすうと規則正しい寝息を立てる、ひとりぶんの体温が委ねられている。
くしゃくしゃの寝癖の頭、花びらみたいなほんのり色づいたうすいまぶた、時折むにゃむにゃ動く唇。起きてる時だってあれだけよく喋るんだから、夢の中でもなにか喋っているんだろうか。
あたたかくてやわらかなそれに指を伸ばして、気づかれないまま触れていたい。
または、この無防備な顔をこのままじっと息を殺していつまでも眺めていたい。
ふたつのぶざまな願いは、そのどちらも選びようがないのを知っている。ぱち、と震えるまぶたは、目覚めのほんのすこし前にいるのを教えてくれているから。
いいな、なんか。こういうの。
喉の奥でだけぽつりとそうひとりごちながら、あたたかな息をゆるく吐きだす。自分の無防備な姿を見られるのはやっぱりまだどことなくはずかしいけれど、立場が逆になれば途端にカードは裏返る。
すこしだけいびつに震えた指先を伸ばせないままにじいっと目を凝らしたままでいれば、綺麗なアーモンド型のカーブを描くまぶたをしばたかせながら、あやふやに揺らいだ視線はこちらを捕らえる