紹介文
女と扱われない女たちは、男ではない男と寝るしかない。
「雨」を浴びた者にいずれ訪れる「雨下症」という病。肌に斑点がふき出し、やがて血を吐いて死に行く彼らに、愛を育む意味は見出せない。責任を取ることができないから、行動も身勝手な子供のまま、ひたすら自分と他人を傷付けていく。 幽霊のようだった昔の恋人が目の前に現れ、ヒビキとその周りの女性達との関係も、狂った歯車のように回転を始めていく。
収録内容
05「愛楊葉児」 自暴自棄のような戦い方をするヒビキに、スズネはなにも言えないままお台場をあとにした。なにもかもを知り尽くしているようで、二人はお互いの領域にまったく踏み込めないでいる。なにを大切にするべきか、もう誰にも分からなくなってしまいながら、ヒビキを誘惑するのは辻村家の長女、サキだった。
06「言問橋」 ユキとの衝突の後、ヒビキは雨樋でスズネの住み家に身を寄せていた。ただ、そこで流れている時間もまた、ヒビキとスズネを苦しめるだけの退廃に過ぎなかった。自分の好みすら満足に話せない、自分の主張が空っぽなヒビキに対し、スズネは一つの提案をする。
07「残響」 チトセが帰り、そして死んでからの僅かな時間。その間に壊れた関係は、少しだけだがもとの綻びのまま再び繋がり始めた。 ヒビキはなにも進展していない身の回りの関係に、それでも少し安堵を覚えるようになっていた。 自分のためにどれだけ泣いていないのか、彼はもう分からなくなっていた。確かなのは、本当は他人である家族に抱きしめられたいという想いだけで、そうすれば、きっと涙を流せるのだろうということだった。
08「雪」 一〇年前、戦争が始まったあの日以来、ずっと降っていなかった雪が、雨街に舞い降りる。 青いマフラーの少女、ユキはヒビキの家を訪ねる。スカイツリーと雷門、二つのランドマークが挟むその場所に、なにかが残っていると思いたいから。
その他情報
表紙イラスト イツミミタ
著者 転枝
サークル 木の葉スケッチ
サイズ 文庫
ページ数 240
装丁 表紙一色塗り カラーカバー付き