◆本文抜粋◆
横からの視線になるので視界や音響が優れているとはいえないが、中二階として設けられており、一般客席からはのぞけない仕組みになっている。
貴族や皇族たちの逢瀬。あるいは政治や外交の秘密裏の会合につかわれる傾向がある。
そんな秘密の小部屋に通され、青い髪の少女は相手を待っていた。
肩で切りそろえられた、鮮やかな青い髪。そして、群青色の瞳。
その蒼さを人はロイヤルブルーと呼んだ。帝国皇室だけが受け継ぐ、髪と瞳の色。
従者もつけず、ぽつんと立っている。手ぶらでやってきたため、手持ち無沙汰を感じ、手すりに手をかけて一般観客席と舞台を覗き込む。
ちょうど歌手が現れ、拍手が沸き起こる。
どこからどうやって照らされているのか。青い髪の少女にはまったくわからなかったが、舞台を照らすスポットライトが女性歌手を艶やかに染め上げる。
明かりが消され、徐々に薄暗くなる。天井の高いホールに響く歌手の挨拶。
魅力的なステージパフォーマンス。
それらすべてが少女にはとても新鮮で、心奪われるには充分だった。
やがて、張りのある伸びやかな声で歌いはじめる女性歌手。
彼女の着ているドレスは体のラインに合わせた薄手のワンピース。桃色の髪に合わせて赤系の色合いだ。胸元のシルバーアクセサリーがライトの光を反射する。
感情をしぼって、語りから入るバラード。
はじめてみる舞台、はじめてみる歌手、はじめて聞くプロフェッショナルの歌声。
そして、客席がひとつの意志の様に集中して聞き惚れる一体感、それを最高級のドレスを着て、特別の部屋を与えられてというゼイタクな観賞。
はじめてづくしの体験に頬が染まり、胸の高まりが止まらない。
彼女の青色の髪にあわせ、白系でまとめられたワンピースのドレス。
肩を出し、襟や裾をフリルで包んで、正直照れくさい。
――まるでお姫様だ。
青い髪の少女――ミストはそう思ってみたが、ふと頭をかしげる。
――そうか、お姫様になるってこういうことか。
自分の胸元には拳大の宝玉が鎮座している。そのこと以外はそれこそ、お姫様の立ち位置だった。
一曲目がフェードアウトする。
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