こちらのアイテムは2015/11/23(月)開催・第二十一回文学フリマ東京にて入手できます。
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真夜中のころ

  • Fホール(2F) | イ-23 (小説|BL)
  • まよなかのころ
  • 高梨 來
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 400円
  • 2015/11/23(月)発行
  • 創作男女 │ 文庫 │ 102頁  │  400円 │ 15/11/23



    どこにもあなたを帰してしまいたくないと、そう思いました


    深夜のファミリーレストランを一人訪れては無為な時間を過ごしていた私はある日、その店にはどこか不釣り合いな佇まいを持った男の姿を目にするようになる―― 明け方に出会い、ゆるやかに心を通わせあっていくふたりの恋は、朝の光に包まれるようにしながらゆっくりと重なり合い、やがてひとつに溶け合う。

     WEB掲載済みの掌編「真夜中のころ」(オフライン版発行に伴い、加筆修正しています)と、その後の二人の行方を書いた三つの小さなエピソードを収録しました。 偶然の出会いに導かれ、夜明け前に出会ったふたりが共に朝を迎えるまでの、ささやかな恋のお話です。



    【本文サンプル】

     遠目にしか見たことのなかったアパートのドアをくぐり、手袋を外した指先が手慣れた手つきでオートロックのドアを解除するのをぼんやりと眺めながら、同じように手袋を外し、手持ち無沙汰な掌を手袋ごとポケットに押し込むようにする。
     いつものように何か話をすればいいのに、とは思うのに、胸の奥がつかえたようにうまく言葉が出てこない。無言のまま二人きりのエレベーターを降り、招かれるままに玄関先へと足を踏み入れる。ガチャリ、と背後で響くキーロック音に、どこか心臓がぎゅっと跳ね上がるような緊張感を覚える。
    「急なお招きですみません。散らかっていますが、それでも良ければ」
     やわらかなその声に導かれるような思いを感じながら、それでもどこか落ち着かない心地のまま、きょろきょろと玄関先に整然と並べられた靴たちに目をやる。
     如何にも手入れの整っていそうな革靴たちに、少しくたびれた様子のスニーカー。そこから漂う普段は感じ取れなかった生活の気配と、確かに一人分しか読みとれないその存在感に、どこか安堵にも似た気持ちを覚える。
    「……有川さん」
     背の高い彼の目線は、室内へと上がったことでいつもよりもほんの僅かに高くなる。踏み越えてしまえばすぐ追いつけるはずの段差を前に、どこか戸惑いを隠せないまま、パンプスにくるまれたつま先が微かに震えているのを感じていれば、冷たくとがったしなやかな指先がふいに、すっと滑らかな手つきでこちらへと差しのばされ、僅かに震えた手首をそっと掴む。
    「……遠峯、さん?」
     まるでワイングラスのふちにそっと手をかけるような、酷く繊細な手つきだった。壊れもののように触れられたその指先から波打つ脈の速さを気づかれてしまいそうで、見る見るうちに胸の奥が熱く火照らされていく。
    「痛くはありませんか?」
     囁くような声に、空気が微かに震わされたかのような錯覚を味わう。
    「……いえ」
     瞳を合わせたまま、ただじっと見つめあう。ほんの一瞬のその筈なのに、まるで永遠のように感じる心地よい沈黙と漂う甘い空気に、ぐらりと飲み込まれそうな心地を味わう。
     言葉の代わりのように小さく頷いて見せれば、捕らえられたままの手首に少しだけ力を込めるようにしてそのまま引き寄せられ、冷たい空気をたっぷりと吸い込んだコートの胸の中にぎゅっときつく抱きすくめられる。
    「―ずっと、あなたに触れたかった」
     囁くように耳元でそっと言葉を投げかけながら、どこか遠慮がちにそろりと背中に腕を回される。二人分のたっぷりと全身に吸い込んだ冷たく尖った冬の空気が混じり合い、そこから僅かに触れあった体温がやわらかに溶けていく。肯定の意志を示すようにゆっくりと遠慮がちに、それでも確かな意志を込めてコート越しの背中に腕を回し、俯いたままだった目線をそっと上げれば、今までに目にしたことのないような熱の籠もった強いまなざしが私を見下ろしてくれているのが分かる。
    「有川さん?」
     背中に回されていた腕が、ゆっくりと髪をなぞる。乞われるままに顔を上げてじっとそのまなざしを見つめ返せば、折り重なるようにそっと吐息を重ね合わせられる。

     初めはほんの僅かに。すぐに首の角度を変えて、体重をかけるような重い口づけが重ね合わされる。途端に、凍てついていたはずの身体の奥がこらえようのない熱さに揺らされるのを感じて、目眩がしそうな心地を味わう。
     触れたその先から形を辿っていくような、この奥に潜めた熱を手繰り寄せるかのような滑らかで熱い舌先の戯れと指先の動きに、もどかしさが加速していくのを感じる。不器用に舌を差しだし、首の角度を変えては身体ごと預けるように繰り返し何度も触れれば、きつく吸い上げられるその感覚に、触れた先からとろけてしまいそうなそんな錯覚を味わう。
     触れれば熱くなる身体を持っている――そんなこと、当たり前の筈なのに。その熱をこんな風に差し出してもらえるだなんて、思いもしなかったのに。

     痺れるような甘い戯れを幾度となく繰り返すそのうち、立っていることすらおぼつかなくなってしまう。縋りつくようにきつく腕を回したまま焦点の少しぶれたまなざしを向ければ、同じように熱にうなされたかのようなまなざしにきつく捕らわれる。
    「……寝室へ」
     囁くような微かな、それでいて、強くこちらを捕えて放そうとはしない熱情をたたえたその響きを前に、黙ったまま首を縦に振る。ようやくの思いで震えたままのつま先をパンプスから引き抜くようにして、促されるままに彼の後を追う。脈を打つ早さをどんどん増していく手首は、しなやかで少し冷たい彼のその掌に、最初に触れられた時よりもうんと強い力できつく捕らえられている。




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