――隠り世の扉、開けてみませんか?
ソウブンドウがお贈りする文芸同人誌第四弾!
今回は、
「仮想空間」をテーマに書き下ろされた
短編小説五本からなる(広義の)SFアンソロジーとなりました。
此処ではないいつか、今ではない何処か……カクリヨ<仮想空間>は、貴方が訪れるのをひっそりと待っています。
人の世とは異なる世、人ならざるモノが住む世で、どうか、心ゆくまで迷子になってください。
ソウブンドウメンバーからは空木春宵と神尾アルミ、二年ぶりの参加となる若本衣織、今回からサークルメンバーとなった七木香枝の四名が参加し、また、特別ゲストとして、怪談や超短編、豆本制作等でご活躍中の武田若千さんをお招きしました。
得意ジャンルの異なる五人が如何なるカクリヨを生み出したのか、是非、お手に取ってお確かめください。
表紙を飾るのは、こちらも今回からサークルメンバーに加わったenuの美麗なイラスト。
繊細な描線と、きめ細やかながらも大胆な色づかいが美しい作品です。
収録作一覧(掲載順・敬称略)
『夢の中ならあいつは泣いた』 神尾アルミ
ある夏の日、一人の生徒が美術室の窓から落ちた。
六日後、五人は同じ〈夢〉で目を覚ました。覚えていることは一つだけ。「あいつを窓際まで追いつめたやつらに、死ぬほどの後悔を味わわせてやる」
五人とも同じ思いを抱えて互いの顔を見、そして気づく。思い出せない。やつらの顔も、名前も。あいつのことも。だけどこの中に必ず、罪人がいる。
不安と怒りの渦巻く〈夢〉の中、切ない復讐が静かに始まる。
――断罪されるべきは、だれだ?
『Shell-tar』 若本衣織
「私」が水槽を思わせる薄暗い部屋で飼育され始めてから、もう五年になる。恋人の「彼」による心身の支配は、生存や自由への欲求を確実に葬りつつあった。
日々を朧気に消化する「私」が唯一の愉しみとしているのは、幼い頃に祖母がくれた「水夫貝」が見せる海の夢だった。
薄い貝殻を舌先で舐ると、生温い体温に冷たさが溶ける暫くの間、遠い世界に住む水夫の記憶を再生することができる。
しかしある日、水夫貝は唐突に夢を途切れさせ始める。
『The Indiscipline Engine』 空木春宵
貴方の作品解釈には<誤解>が含まれています。よって、我々は貴方の記憶を<是正>します――。
記憶の検索性向上と情報伝達の円滑化の代償として、あらゆる創作物の<解釈>が単一のものに規定され、想像力というものが失われた時代。
<是正>対象に指定され、逃亡を開始した光源氏、アリス、明智小五郎ら「物語」の登場人物、そして、彼らを追跡する<教官>達の行き着く果ては……。
『箱庭の外 Nの肖像』 武田若千(ゲスト)
休日は自宅のテラスに作られた「箱庭」で昼寝をするのが、好きな過ごし方。
「箱庭」で見た夢は目が覚めると、するりと逃げてしまう。朝起きて、学校に行って、仲の良い友達もいるし両親も優しい。
取り立てて不自由も寂しさも感じないはずなのに、何か得体の知れない焦燥感と安堵感に戸惑っている。
交通事故で失われた、幼い頃の記憶。記憶に降ろされたブラインドの隙間から、垣間見る夢。
『鏡の庭でおやすみ』 七木香枝
目に見えなかったものが少しずつ形を取り始めた時代。人は世界を統制する術を得て、ことばは時に魔法めいた力を纏い、恋という概念は喪われつつあった。
世界に馴染む不思議、その最たるものは、人が生まれつき持つ半実在の存在――もう一人の自分である、「半身」だといわれていた。
少し浮き世離れした深空と、彼の「ちょっと特別なおんなのこ」である半身・深森の日々は、それまで通り、静かに移ろっていくはずだったが……。
お試し読み用PDF
http://soubundou.net/kakuriyootameshi.pdf 収録作五作の冒頭から数ページをお読みいただけるお試し読み用ファイルです。各作品の雰囲気を掴んでいただけるかと思います。是非、ダウンロードの上、お読みください。