スティール・ライフ 虚構傀儡の女王
- D-07〜08 (小説|BL)
- すてぃーる・らいふ きょこうくぐつのじょおう
- 久納 一湖
- 書籍|文庫判(A6)
- 272ページ
- 1,000円
- https://team-hattari.jimdosit…
- 2025/4/18(金)発行
人として生きていくために
シリーズ3作目。
近未来SF+アクション+キャラクター群像劇
ラボ生まれの主人公が、特異体質を治す薬を手に入れるためアンドロイドと戦う話。
SFアクションでありながら、主人公の伊野田くんが居場所を見つける物語でもあります。
危険なオートマタと戦う仕事を引退した伊野田は、自身の体質を治す中和薬を得るために研究所で働いていた。危険と無縁の生活に充実感を覚え始めていたが、笠原拓の来訪をきっかけに再び戦いに巻き込まれる。
本作はシリーズ3冊目。表題作収録。迫力のアクションシーンは、瞬き厳禁!
悩んで戦って恋をして成長していく姿を描く長編。
#マーシャルアーツ #オートマタ #人造人間 ※暴力・流血あり
シリーズだけど、どこから読んでも大丈夫🙆気になるところから読んで、関係性の変化を楽しむのも⭕️
【こんな人向け】
🥋 本格的なマーシャルアーツアクションが好きな人
🦾 長編SF+人間ドラマを楽しみたい人
❤️ 戦闘の裏側にある「仲間とのつながり」を読みたい人
・登場人物
伊野田…主人公。前線引退したのに戦いに巻き込まれる。趣味はパズル。
笠原拓…伊野田の相棒。チャラい。
黒澤さん…主人公のサポートが得意
高見佳奈…メカ機械、にぎやか担当。
琴平…伊野田の監視者。親代わり。
【読者様からいただいた感想】抜粋
・とにかくアクションシーンがかっこよかった
・登場人物の関係性が1作目から進展があって、読み進めているうちに嬉しくなった。
・シリーズ読んでいて良かった…
など、ありがとうございます。
作:久納一湖、イラスト:ハルサカ様
【2章 抜粋】
メトロシティの研究所には少し風変わりな男がいた。
胸の奥に生まれた普通の普通らしいありふれた充実感を日々噛みしめ、帰路に就くまでの過程や明日を平和に迎えられる日常を、彼は幸せだと思った。こういった気持ちはどこから芽生えるのか。実際には胸部周辺の毛細血管に血液が多く巡っているだけに過ぎないが、男はその反応ですら喜ばしく思っていた。
新しい環境や業務というのは、心地よい緊張感を与えてくれる。緊張感は意識に作用し、集中力を高めてくれる。目の前のデータに集中していれば、例え先輩所員から「ポンコツ野郎」呼ばれたところで気にはならない。内勤は初めてであるためポンコツであることは正しいとも言える。それに約三十年ほど生きてきた中で、特定の関係者からは人間扱いすらされてこなかった彼にとってはポンコツ野郎と呼ばれることなど気にもならなかった。野郎、という単語が付くことで、むしろきちんと人間扱いされていると喜びそうになったくらいだ。
「伊野田さん、お疲れ様でしたー!」と元気な同僚に声をかけられる。伊野田も朗らかに手を挙げて挨拶した。なんて素晴らしい日常だ。
駅に向かう。街は今日も滞りなく動いている。人やモノの動きが連鎖し、大きなうねりを造り出し続けるこの街は、煌びやかさと無骨さが混ぜこまれた産業都市メトロシティだ。エリア内で最も機械産業と通信速度に優れた都市で、その象徴ともいえるものが前から歩いてくる。オートマタだ。見たところ笠原工業製で、街でいちばんメジャーな人型モデルだ。一見すると人間と全く変わらないが、違ったところがあるとすれば、頭上に天使の輪と呼ばれる円環が回っていることだ。正規品の証である。円環には機体のデータや状態が投影されており、彼女の場合はオーナー企業名と型式番号が表示されていた。
加えてオートマタは瞬きひとつしない。人間らしい動作をプログラムされている中で、差分をつけるために制限された動作が瞼の開閉運動だ。だから彼らは、ずっと目を開けたまま起動している。すれ違いざまにこちらを見た気がした。笑いかけると相手も微笑んでくる。プログラムが作動し、顔面の表情筋パーツが動いただけに過ぎないが、悪い気はしなかった。街は当たり前のように彼らと共存している。
大通りに出ると、サイレンを鳴らしながら車が数台走り抜けて行く。あれは事務局の車だ。どこかで違法オートマタが事件を起こしているに違いない。違法オートマタは名の通り円環もなく業者も不明な粗悪品だ。それを監視する機関の一つが事務局である。彼は「まかせたぞ」と思いながら心の中で手を振り車を見送った。もう違法機体の対応に関して強面な監視者から緊急呼び出しをされることもないし、危険な現場に向かうこともない。「おまえ今まで頑張ったよな」と思いながら彼は義手の右腕を撫でた。
今週も真面目に新人らしく業務をこなした。自分にとって必要なデータが取得できなかったのは残念だが、地道にこなしていくしかない。地道な作業を続けるというのは、いかにも人間らしいではないか。その気持ちを補完するべく、帰ってビールを開け、新しいパズルを組みたい。そしてまた来週に備えるのだ。
しかしそんな気持ちが約三十分後に台無しになるなど、誰が予測できただろうか。彼はまだ、それを知らない。
