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鳴き沙のアルフェッカ

  • C-17 (小説|ファンタジー・幻想文学)
  • なきすなのあるふぇっか
  • 里見 透
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 150ページ
  • 500円
  • http://thor.hiho.jp/books/alp…
  • 2017/11/23(木)発行
  • 少年主従×通過儀礼

    海洋国家イフティラーム。
    春を告げる稲妻が夜更けの空を駆け、海を走る美しい郷。 待ちに待った十五の歳の海神祭の日、長の後継たるカラヤは、 親友の疑惑に満ちた死に直面する。

    友への疑念、宗主国との確執、外海の敵、託された思いと後悔。
    戸惑いと苦悩の先に、彼に与えられた真実とは。​

    著者:里見 透
    表紙・扉絵・デザイン全般:ホジョイ

    BOOTHにて、がっつり試し読みできるPDFを配布中です。
    https://thorsatomi.booth.pm/items/7153883

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    《冒頭》(ルビ情報を省略しています)
    --------------

     稲妻が空を駆けてゆく。
     雲が立ち込めた夜更けの空に、月は浮かばず星は瞬きすらしない。暗晦とした空に根を張るその光は、瞬時に走り遠く轟き、静かな海へ降り注ぐ。
     春雷。ぱらぱらと雹の降る浜辺を歩けば、また不意に、彼の視界に光が割り入った。
     この土地で見る、十六回目の春の景色。轟く雷鳴。唸る潮騒。強い潮風は、彼の黒髪を容赦なく掻き乱していく。
    「カラヤ様、このようなところにいらしたのですか」
     引きずるような足音とともに、老人の声が聞こえてきた。彼の世話役たるジャッドであろう。夜更けの浜辺に一人佇んでいた青年──カラヤが振り返れば、そこには予想通りの老爺と、それから女官が数名控えていた。
    「そろそろ会食のお時間でございます」
     伝えられたその言葉に、「ああ」と短く応えを返す。同時にまたひとつ、激しい雷鳴がカラヤの鼓膜を揺らして抜けた。
    「見ろよ、ジャッド。今年の春雷も活きがいい。このような時期にお越しになって、御客人方は今頃、恐怖で震え上がっているんじゃないか?」
     冗談めかしてカラヤが言えば、ジャッドは軽く目を伏せ、よく蓄えた己の白い髭を撫で付ける。
    「カラヤ様。そのようなお言葉、かの国の方々の耳に届けば、冗談では済みませぬ」
    「悪態のひとつもつきたくなるさ。宗主国、──ダフシャの人間どもの、あの態度を見ただろう。イフティラームの恵みは全て自分達のものだと言わんばかりの態度を見て、お前はなんとも思わなかったのか」
     入り江の砂を踏みしめ、荒れる波へと右手を延べる。それに応えるかのように、雷鳴はまた轟いた。
    「昨年の事件を受け、かの国のお偉方も、今回ばかりは皆、神経を尖らせております。今年こそ、……今年の海神祭でこそ、古く騒海の民から勝ち取った祭壇に、イフティラームの民が火を灯さなくては」
     老人の言葉に滲む疲労も、決意の強さも、カラヤにはよくよく理解のあるところであった。この国イフティラームにおいて、最大の祭たる春の海神祭。毎年、十五を迎える少年少女が武の腕を競い合い、国一番の勇者と認められた者が、海の祭壇へ火を灯す祭である。
     この祭はそれを行うイフティラームの民のための祭でもあり、それを従える宗主国、ダフシャの繁栄を祈るための祭でもあった。カラヤ自身も昨年は、その年の勇者──祭主と認められる為、しのぎを削り武勇を競ったものである。
    「わかってるさ。今年は俺も十六になる。誰と競うわけでもなく、祭にはただ、首長の後継ぎとして参加する。……祭がつつがなく執り行われるよう、出来る限りの勤めは果たすさ。今年こそ」
     気の乗らないままそう言って、そっと、己の左掌に残る傷跡を指でかきむしる。老人は「ええ」と短く応え、そっと視線を海へと向けると、「昨年のことは」と言葉を濁した。
    「イスタバルのことは、……残念でございましたが」
     イスタバル。その名を耳にした途端、カラヤの心中はいまだ衰えを知らぬ疑念と後悔の影に燻った。カラヤの親友であった男の名。昨年の勇者として、祭主として、国にその名を残した男、──そして。
    「不用意にその名を出すな。郷の祭事に、影を落とした男の名だ。それこそ、かの国の御客人方に何を言われるやら」
     有無を言わさぬ口調でそう言い捨て、羽織った布を翻し、颯爽と浜を歩んでゆく。老人と女官達が遠慮がちに後をついてくるのを感じ取りながら、しかしカラヤは彼らに一瞥もくれることなく、日の沈んでゆく水平線に背を向け、政務と裁きの家への道に足を進めた。
    「──、既に死んだ人間の名だ」
     ぽつりと小さく、呟いた。
     季節が一巡した今になっても、あの時のことは知りうる限り、ありありと思い出すことが出来る。親友と慕った男の裏切り、──そしてその死の経緯を。
    「二年続けて祭に障りが出ては、郷の者にも、ダフシャの使者にも示しがつかない。準備を怠るなよ」
    「御意に」
     老人共が、厳かにそう頷いた。





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