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海嶺谿異経

  • う-36 (小説|ファンタジー・幻想文学)
  • かいれいけいいきょう
  • 孤伏澤つたゐ
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 76ページ
  • 450円
  • 2017/2/12(日)発行
  • おや、久しぶりの来客だ。私はドクトルユキオカ。ここはそのラボだ。
      よくたどりついたね、……ノーチラス?あれは、きみのような大きさのものを運べただろうか?
     ノーチラス、潜水艦(ノーチラス)なるほど。陸にはいつのまにかそんな文明が生じていたのか。なにせわたしがかの地にいたのは、もう何億年と昔のことだから。こんなからだで、どうやって? と。
     ふふふ、いまはね、いまはこんな、十本の手指と足指を持っているが、昔は違ったんだ。十本足で半透明の、うつくしい姿をしていたのだ。
      ……年長者の話はつまらないかね。そうだろう、わたしもそう思っていたよ。ペンギンや鯨、老いぼれどもの話に耳を傾けることになんの意味があるのか、とね。  だが、今では後悔している。彼らの言葉は歴史であり、神代がたりであったのだ。
     ああ、あのことばの数々! ひとつひとつが、失われた太古を過ぎ去った郷里を偲ぶ唯一のよすがであったのに!
     私のこの耄碌し欠けてしまった脳の記録では、とりこぼしてしまったものが多すぎる。
     光すらたどり着けぬ闇の深部にたどり着いた君に、これをあげよう。
     これは完成することのない図鑑だ。
     みずからの職務を放棄し、老いぼれの言葉をくりごとと侮った語り部が、足りぬ部分を夢と空想で補完し、それでもなお欠損のおおい、な。
     さあ、ゆきなさい。
      きみはまだ命の死骸の降るのを雪と呼ぶには若すぎる。

     清浄なるH2Oの結晶の降る、陸へお帰り。


     ツイッターでツイートしていた深海生物をもとにした架空の説話集です。

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