ともだちのにのうでに、うろこが生えた。
にのうでのうらに生えているソーダみたいな薄青い色のうろこは、水族館で見た、なんとかいう蛇のようなこまかいもので、やわらかい肉をまもるには心もとないものだった。
「どうして」とたずねると、ともだちはいつものようにぷかぷかとわらって「『ゆめ』をみたんです」と言った。
「夢?」
「ねむるときにみる 『ゆめ』です」
「それでどうして、そんなところにうろこが生えるの?」
ともだちは、なにもいわなかった。
ただそのうすくてはかないうろこの生えていることは、ぼくとおれだけの『ひみつ』だと釘をさして、『みずあび』に噴水広場へ行ってしまおうとする。――おれはゆっくりとそのうしろをついてゆく。はたからみれば、ついさっきまで会話していたような名残のない、そういう微妙な距離をあけて。
すこしおおきめの、布がたよりなくあまっているブレザーの背中は、中庭にぽつぽつと植えられた広葉樹のあいだをふわふわと歩いてゆく。
おれはともだちのとおりすぎたふたつめの木のところでたちどまって、かれの進行方向とは別の方向をみつめる。学院のまんまえの海から吹き上げてくる潮風はよく冷えていて、ともだちの秘密でじりじりしているおれの喉元をあざけるように撫でてゆく。――こういう風が、風波を海面にいくつも生じさせるのだ。
そろそろ、とおれは姿のみえなくなったともだちを追うことにする。
時間にして、数分。
そのころにはともだちの制服は噴水の水を吸って重くなっていて……おれは、ああかれが服を着たままいつもぬれそぼっているのはあのひみつのためなのか、と納得しかけてしまった。
あれからしばらくたつ。
うろこを見せられたことは夢だったのか、それともうつつだったのか、わからないままのつきあいがつづいていて。
おれはときどき、自分のからだにもうろこが生えてはくれないかと期待をすることがある。――ときどき。ときどき。
「あんさんぶるスターズ!」二次創作深海奏汰中心本です。
孤伏澤つたゐの小説を2篇、ゲスト三名様による短歌を収録しています。
収録作「潮になびけば」のためし読みはこちらへどうぞ。
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